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「オイ酒酒酒酒!俺の隠した酒どこやったよオイ!」

「知るかよ隠してあんだから」

「ウハハ全然寝れなかったが俺は今日この日を糧に生きて来たんだ!酒飲むぞーー!」

「なんかもう公園まで行くのめんどくねーか?」


遠耳に隊士たちのドタバタ騒ぐ声を聞く。

今日は朝から隊士たちのはしゃぎっぷりが凄かった。
普段ならもっとのそのそ起きるところを皆呆れるくらい早くに起きて来た。

それもそのはず、何せ今日は毎年恒例の花見であるのだ。公園の桜の樹の下、無礼講のもとで浴びるほど酒を飲める日だ。この日は皆盛大に飲み散らかす。後のことなど考えない。



桜の盛りのこの時期に花見をするのが恒例化してどのくらいだろうか。
暇な時と忙しい時の振り幅が大きい真選組なので皆が非番というわけにはいかないが、それでも有志を中心に今日の非番役を配った。夜勤明けでそのまま来る隊士も中にはいるので今年もそれなりの人数が参加出来そうだ。やはり宴会は人数が多くなければ。


ここ最近の真選組は何かと忙しく、新年度の忙しなさを組内部にも感じとれた。
というのも、春になるとテロ対策以外の仕事も上から回されるようになるためだ。

暖かくなって冬眠から熊が目覚めるようなものなのか知らないが、まぁバカな奴らが暖かさに浮かれてバカを始めるのである。

ちなみにここ3日で露出狂騒ぎは6件あった。

お願いだから風邪を引いてほしいと願う隊士たちだったが、悲しいかなバカは風邪をひかないというのは自分たちで立証済みのことである。


「あ?錦場所取りは?」


談話室でコーヒー片手に新聞を読む錦に土方が後ろから近づいた。今日の場所取りを錦に頼んでいたはずだが何故優雅にコーヒーなぞすすってるんだこいつは。
昨日の夕刻に屯所へ数日振りに帰って来た錦は、今日に控えて早めに寝たはずだ。


「暇そうだったから退に行かせた」


思わずあぁ…と納得した。
自分もたいがいだがコイツも人使いが荒いなと口を苦く歪めた。
錦は相変わらず新聞から目を離さずコーヒーをすすっている。


「総悟そろそろ起こした方がいいんじゃない?起きて来てないんでしょ?」

「知らね。見てねーのか」

「見てないから言ってるんでしょ。起こしてきてあげて」

「おっまえ馬鹿、俺が言ったら屯所内で別のテロが起きるだろ。お前が1番適任なんだから行けよ。いや、俺はアイツ置いてってかまわねーけど」

「ハイハイ、あとで恨み言言われるのもアレだし、行きますか」


総悟ああ見えて根に持つからな〜と言って椅子の背もたれに新聞を掛けて出て行った。




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ギリギリまで寝てた割にシャキッとしている総悟を伴ってやっと屯所を出た。
柄の悪い男たちは、固まって移動するだけでも相当目立つ。道行く奥様方がヒソヒソしているが、誰も気にせず騒いでいる。たまに通行人に威嚇する隊士もいて後ろから殴りつける。
頼むからこんな日くらい大人しくしていてほしい。


公園に着くと、いつもと同じ場所に向かう。
真選組は大所帯なので、広めの場所をいつも場所取りしておくのだ。
その途中で急にお妙さんのかほりがする…!近藤が走って行ったが、今日は皆スイッチが切れているらしく、土方でさえもやる気なさそうに「おーーい」と小さくなるその背中に投げかけるのみだった。
何かあればもう切り捨て御免ということにしよう。今日は無礼講だし。


「あれ、ちょっと待って、誰かいない?」

「あ?」


遠目にいつもの場所を視認できる距離になって、そこに近藤が座るのが見えるが他に数人部外者が座っているのが見えた。
そのうちの1人は見覚えのあるクルクルパーだ。


「ガハハハハ 全くしょーがない奴等だな。
どれ、俺が食べてやるから」


このタッパーに入れておきなさい。

その言葉に一拍おいて、1つに髪を纏めた女の子が掌底で近藤を吹っ飛ばした。


「何レギュラーみたいな顔して座ってんだゴリラァァ!!!どっからわいて出た!!」


やり取りを見て、この子が“お妙さん”かと合点がいった。
なるほどいつもこうして締め上げられて帰ってくるのか。どうりであのザマになるワケだ。
降り止まぬ拳の雨で近藤がボコボコになっていく。


「オイオイまだストーカー被害にあってたのか。
町奉行に相談した方がいいって」

「いや、あの人が警察らしーんスよ」

「世も末だな」



「悪かったな」



呑気なことをぼやくクルクルパーの後ろに真選組が並ぶ。
その筋の者と同じ様な出で立ちの男どもが固まってゾロゾロ歩く様子は、さぞ異様だろう。
まぁこういうとこで幅を利かせている部分は多少あるのも事実だが。


「オウオウ、ムサい連中がぞろぞろと。
何の用ですか? キノコ狩りですか?」

「そこをどけ。
そこは毎年真選組が花見をする際に使う特別席だ」


相方のいちゃもんに、錦は珍しいなと思った。
あんまりこういうことに固執する男だとは思わなかったが、どうやらこのクルクルパー、もとい坂田銀時が気に入らないらしい。まぁ気持ちはわからないでもない。

同意を求めて隊士たちを振り返ったはずが思った通りの反応を得られなかったので、素直に気に入らないからと白状する土方を見て、部下の存在を思い出す。
アイツに行かせたはずだけどどこで道草食っているのか。


「ていうか退はどこに行ったの。アイツに場所とりに行かせたはずなんだけど」

「っそーだ山崎!どこ行ったアイツ…」

「ミントンやってますぜミントン」

「山崎ィィィ!!!!!」

「ギャアアアア!!」


部下の断末魔にも、因果応報だと呆れ100%のため息をついた。
と、銀時と目があった。


「よう」

「どーも」


別に示し合わせたわけでは無いが、お互い当たり障りのない挨拶に留める。

銀時がどうやら昔馴染みであるということは真選組の者も承知のことであるが、同時にそれしか知らない。
銀時との仲は彼らには有耶無耶にしておきたい。
銀時も自分も、過去のことを掘り下げられると生きづらくなるのは必至だ。

隣で沖田が自分を怪訝そうな顔で見たのを視界の端に見た。
小声で「こないだ街中でバッタリ会って」と言っておくと、まだ釈然とはしないようだったが頷いてくれた。


「まァとにかくそーゆうことなんだ。
こちらも毎年恒例の行事なんでおいそれと変更できん。

お妙さんだけ残して去ってもらおーか」

「いやお妙さんごと去ってもらおーか」

「いやお妙さんはダメだってば」

「近藤くんいい加減にしなさいよキミは」


だんだん内輪揉めになっていきそうになったところに銀時が割り込む。


「何勝手ぬかしてんだ。幕臣だかなんだかしらねーがなァ、

俺たちをどかしてーならブルドーザーでも持ってこいよ」


「ハーゲンダッツ1ダース持ってこいよ」
「フライドチキンの皮持ってこいよ」
「フシューーッ」

「案外お前ら簡単に動くな」


堂々と啖呵を切ってくるので、こちらもつい喧嘩っ早い連中に火をつけてしまったようで。


「面白ェ。幕府に逆らうか?

今年は桜じゃなく血の舞う花見になりそーだな…」


ギラつく目をして携えた刀の鯉口を切る土方。
煙草を加えた口元が上がる。


「てめーとは毎回こうなる運命のよーだ。
こないだの借りは返させてもらうぜ!」


互いの陣営がにじり寄る。
まったくもう…と錦がため息をついたとき、


「待ちなせェ!!」


沖田が高らかにストップをかけた。


「堅気の皆さんまったりこいてる場でチャンバラたァいただけねーや。

ここはひとつ花見らしく決着つけましょーや。




第一回陣地争奪…………、


叩いてかぶって ジャンケンポン大会ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」



「「「「「花見関係ねーじゃん!!」」」」」




錦の溜息が、また1つ落ちた。