7 「えーーーーーみんなもう知ってると思うが、 先日宇宙海賊“春雨”の一派と思われる船が沈没した。 しかも聞いて驚けコノヤロー。 なんと奴らを壊滅させたのはたった二人の侍らしい…………」 ーーーガヤガヤ ガヤガヤ 「……驚くどころか誰も聞いてねーな」 「十四郎」 ーーーガチャ ーーーードガンッ 「えーーーーーみんなもう知ってると思うが、 先日宇宙海賊“春雨”の一派と思われる船が沈没した。 しかも聞いて驚けコノヤロー。 なんと奴らを壊滅させたのはたった二人の侍らしい……」 「「「え゛え゛え゛え゛え゛!!!マジすか!?」」」 手のひらをマッハでひっくり返した隊士たちの頭はプスプスとくすぶっている。 「しらじらしい。 もっとナチュラルにできねーのか」 「トシ、もういい。話が進まん」 再びバズーカを担ぐ土方を止め、近藤は話し始めた。 遡るのはつい先日のこと。 宇宙にあまたにいる海賊の中でも抜きん出て強大な組織図を持つ“春雨”が地球に来ていることは、江戸中を網羅する錦の情報網により掴まれ、真選組幹部には知らされていた。錦以下監察方は全て春雨監視にあてられ機を伺っていたが、件の二人の侍に横から獲物を掠め取られる顛末となったのだ。 江戸に建てられた“ターミナル”。 そこの入星審査は厳正である。ーー建前上は。 ターミナルを通る通らないにせよ、過去の開国戦の二の舞は踏むまいと整えられた厳重な警備システムにより、密入星は難しい。 が、にも関わらず、現在の日本には天人による宇宙と密接なシンジケートが出来上がっている。外から入るだけでは難しい、ということは中から手引きがあったと考えるのが当然だ。それも力を持った人物でなければ春雨など大きく強力な組織は囲えまい。 とどのつまり、幕府内に春雨と繋がる裏切り者がいるということだ。 「真偽のほどは定かじゃないが、 江戸に散らばる攘夷派浪士は噂を聞きつけ 『奸賊打つべし』 と暗殺を画策している。 ーーオレたち-真選組-の出番だ!!」 -------------------- 「こんの野郎は………」 隊士たちに持ち場を配り、屋敷内を見回っていた土方は一番隊に当てた区画にておもむろに足をとめた。止めざるを得なかった。 よりにもよって一番隊隊長の沖田が白昼堂々と居眠りしていたからだ。いつものことだが。 「寝てるときまで人をおちょくった顔しやがって。 おい起きろコラ。警備中に惰眠を貪るたァどーゆー了見だ」 抜刀してこめかみに切っ先を突きつける土方だったが、向けられた沖田は刃先を退けるでもなく、ただやれやれという風にアイマスクを下ろす。 「なんだよ母ちゃん今日は日曜だぜィ。 ったくおっちょこちょいなんだから…」 「今日は火曜だ!!!」 今日こそ締めねばなるまいと沖田の首元を引っ掴むと、ぐいと引き上げた。 「てめーこうしてる間にテロリストが乗り込んできたらどーすんだ? 仕事なめんなよコラ」 「俺がいつ仕事なめたってんです? 俺がなめてんのは土方さんだけでさァ!」 「よーーーし!勝負だ剣を抜けェェェエエ!」 キリッとした顔で言い切る沖田に思わず土方も堪忍袋の緒が切れるが、 ーーーガンッ ガンッ 「「い゛っ!」」 「仕事中に何遊んでんだァァァ!!」 近藤の喝よりすぐ諌められた。 「お前らは何か!?修学旅行気分か!? 枕投げかコノヤローーー!!!」 威勢良く大声で2人を叱りつける近藤だったが、 調子が乗ってきたところで ーーゴン゛ッ 「近藤くんが一番うるさい」 近藤のそれよりもずっと鈍い音のげんこつをもって、錦が場を収めたのだった。 その錦の後ろにはどうにも虫の居所が悪そうな今回の護衛対象禽夜がいた。 「まっっったくだ!!ただでさえ気が立っているというのに…!」 「あ、スンマセン」 錦に殴られたことにより首から下が地面にめり込んだ近藤が生首だけで振り返って謝った。 禽夜は罵倒しながらすぐに立ち去っていった。 「なんだィありゃ。こっちは命がけで身辺警護してるってのに」 「いやお前は寝てただろ」 「幕府の高官だかなんだか知りやせんが、 なんであんなガマ護らにゃイカンのですか?」 遠くなる禽夜の後ろ姿を恨めしそうに見ながら、沖田はそう言った。もともと乗り気じゃなさそうだったが、ますますやる気を失ったようだ。 土から這い出た近藤が沖田をたしなめる。 「総悟、俺たちは幕府に拾われた身だぞ。 幕府がなければ今の俺たちはない。 恩に報い忠義を尽くすは武士の本懐! 真選組の剣は幕府を護るためにある!」 拳を握り熱く語る近藤とは反対に、ほかのメンツはどうにも熱意が生まれない。 熱弁を振るう近藤の話を、肘をついた錦はぼーっと聞いている。 「だって海賊とつるんでたかもしれん奴ですぜ。 どうものれねーや。 ねェ土方さん?」 「俺はいつもノリノリだよ」 「アレを見なせェ。みんなやる気無くしちまって。 山崎なんてミントンやってますぜミントン」 「山崎ィィィてめっ何やってんだコノヤロォォ!!」 直属の部下の悲鳴に耳を傾けることもなく、錦が沖田にまた語りかけた。 「錦はどうなんでさァ」 「え、僕〜?僕は別に」 「総悟よォ、ゴチャゴチャ考えるのはやめとけ。 目の前で命狙われてる奴がいたら、イイ奴だろーが悪い奴だろーが手ェ差し伸べる。 それが人間のあるべき姿ってもんだよ」 腕を組み自分の言ったことにウンウンと頷く近藤だったが、向こうの縁側を1人で歩いていく禽夜は見えていないようだ。 思わず小さく舌を鳴らした錦はため息をついて立ち上がった。 「ハァ……お待ちください禽夜様!禽夜様!!」 「エッアッ、あ゛っ!ちょっと!! 勝手に出歩かんでください!」 駆けて行ってしまったツートップを、やってられないとため息で見送った沖田だった。 「ちょっとォ!禽夜様ダメだっつーの!」 「うるさい!もう引き籠り生活はウンザリだ!」 制止の声など知ったこっちゃないと縁側を突き進む禽夜に、近藤と錦が阻止しようと追従する。 「命を狙われてるんですよ、貴方もお分りでしょう」 「フン、貴様らのような猿に護ってもらっても何も変わらんわ!!」 錦の穏やかな説得にも罵倒で返す禽夜の言葉に、近藤もムキになった。 「猿は猿でも俺たちゃ武士道っつー鋼の魂持った猿だ!なめてもらっちゃ困る!!」 「なにを!成りあがりの芋侍の分際で!」 考え直すどころか頭ごなしに突っぱねた禽夜はブツブツ恨み言のようなことを言っている。 禽夜を説得しながらもこの屋敷の地図と周辺の建物を思い出していた錦は、ふと視線を外して塀の外を見た。今いる場所が、塀の外から丸見えの場所だと思ったためだ。 塀の外の小さな給水塔にはためく布の影にきらりと光る点が見えてからは、考えるよりも先に身体が動いていた。 ーーードォォォオン 痛みより先に身体を抜ける弾丸を身体で感じた。 倒れるまでの視界がまるでスローモーションのように回り、そして身体が床に打ち付けられた。 「退!!」 逃げていく攘夷浪士を見えて、部下の名前を叫んだ。デキる部下はその声よりも一寸早く向かって行ってくれたようだ。 近藤が自分の名前を叫んでいる。 目を動かして周囲を確かめる。 周りを囲む隊士たちの輪の向こう、頭の間からマルタイの姿が見える。 どうやら盾となったのは無駄にならなかったらしい。 そこでふっと身体の力が抜けた。 かがむ近藤の腕が引き裂かれるように破れていた。 「(流れ弾、かすっちゃったか……)」 沖田らしくない声が聞こえて、そこで何もかも真っ暗になった。 |