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「…はい、回収物は確かにお預かりしました。あ、報告書の提出は本日中にお願いいたしますね」

「了解。…っと、はい、もしもし? うえっあっちょ、ちょっと待って!
ヒバリちゃん!今日分の任務の報告終わりで大丈夫?」

「はい。お疲れさまでした」

「うん、お疲れ様!悪い、この後の練習なんだけど先に始めてて!」

「ちょっ…」

「エミールにも伝えといて!電話終わったらすぐ行くから!」


慌ただしく走っていく後ろ姿を睨んでいると、くすくすと笑う声がして、声の方に目を向ける。


「もうっ…!」

「ふふ…あんなに喜んでいるということは電話の相手は…」

「隊長ばっかりずるいよ。私だってオスカーと一緒に戦ってるところみてもらいたいのに!」

「何かと忙しい方ですから。長期任務に出て長いですし、そろそろこちらに戻れるといいんですけどね」

「本当に、そう思います」





ドアを開けると、びゅうと風が吹き込んできた。外部居住区が見渡せるこの場所で、あの二人と誓いあった。


"約束する…絶対"

"今度は二人にかわって俺が極東を守るよ。みんなが帰るこの場所をずっと守って…そんで待ってるから"



ポケットに突っ込んでいた端末を取りだし、応答のボタンを押す。


「…、もしもし? 待たせてごめん」


バースト、と。名前を呼べることがこんなにも嬉しい。


『いえ。急用ではないのでかけ直しましょうか?』

「ううん、大丈夫!最近そっちはどう?」

『正直なところあまり芳しくはありません。赤い雨の発生地域も日に日に拡大している状況です。関係あるかは今のところ不明ですが、感応種の目撃情報も増えていますね』

「そっか…。無理してない?」

『私たちは大丈夫ですよ。極東の方はどうですか?変わりありませんか?』

「今のとこはね。ただ、黒蛛病の人たちの治療が追い付かないのがちょっと辛いとこだな。早いとこ治療法が見つかってくれるといいんだけど」

『そうですね…。根本的な問題解消としては赤い雨が降らないようにすることなのですが…』

「サカキ博士もそう言ってたけど原因がわかんないから時間かかりそうってさ」

『そうですか…』

「まっ俺たちは今まで通りやっていくしかないよな!」

『はい…そうですね。あ、新人教育の方はどうですか? 結構手を焼いているらしいってソーマから聞きましたが…』

「二人とも相変わらずでさー。今度戻ってきたときにでも練習見てやってよ」

『勿論です。そのときはコウタとエリナとエミールと私でミッションにでも行きましょうか』

「うん!まだしばらくはそっちにいるの?ええと今は…」

『あ、いえ。今は移動中でして…この前の話のとおりユウが近々そちらに戻るので、よろしくお願いします。私は明日からまた違う地域で例のアラガミの調査があるので戻るのはまだ先になるかと思います』

「ん 、了解。あのさ、ユウが居ないってことは暫くはひとりなんだろ?」

『いえ、リンドウさんと合流します』

『それはそれで心配なんだけど…ま、とにかく絶対に無理すんなよ!』

『? リンドウさんが居てくださるなら心強いですよ?あ、そういえば、聞いているかもしれませんが』

「うん?」

『感応種に対抗できる部隊が誕生したらしいと聞きました』

「えっマジで!?」

『はい…どうやら今まで研究を続けられていた偏食因子に適合した神機使いたちで構成された特殊な部隊だそうです。ただ、適合率は今でこそ主流になってきた"新型"よりも遥かに低いため少人数だと聞いていますが…』

「へえ!それが本当なら今の状態もちょっとはよくなるかな」

『そうですね。部隊名は確か……』


ガサガサと、端末の向こうから書類をめくるような音がした。


『ブラッド』





空を見上げる。
ブラッド、と先にヘリに乗っていたロミオ先輩に呼ばれて慌ててヘリに乗り込む。なんかあったのと聞かれてふるふると首を横に振る。


「なあなあ、今日ジュリウスがミッションに来れなかったのって、第二期候補生の適合試験に立ちあってるからなんだよな?」

「確かそのはずです。第二期候補生、とはいっても私も正式に配属されたのは2週間前ですし、あんまり実感わかないです…」

「そういえばそうだなあ…。ブラッドとはずっと昔っから一緒にいるみたいな感じだけど会ってからまだ全然時間たってないんだよなあ…なんか変な感じ」


操縦士さんにお礼を言って、フライアに降りたったヘリから降りた。フランさんにミッション終了を報告してから部屋の前でロミオ先輩と手をふってわかれる。今までずっと病室で過ごしていたから、自分の部屋って不思議な感じだなあ…。

落ち着いた色合いのおしゃれな家具…確か前に本で見たとき、アンティークって書いてあったかな… 。こんなに広くて素敵なお部屋を貰っていいんですかって案内してくれたラケル先生に聞いたら、いいんですよって優しく笑っていたっけ。


「?」


報告書を手に部屋を出ると、向かいのお部屋に人が出入りしているのが見える。
確か空き部屋だって聞いた気がするなあ、と思って眺めていると、最近顔見知りになった世話係りの人を見つけて声をかける。


「あら、本日のお勤めお疲れ様で御座いました。どうかなさいましたか?」

「あ、ありがとうございます…!あの、何かあったんですか?」

「第二期候補生の方のお部屋を準備していたところですよ。ブラッドさんと同じ女性のようなので仲良くなれると良いですね」


「! お、女の子なんですか…!わあっ…」

「ふふ、良かったですね。あ、そうでした…本日の夕食はラケル博士の自室でと言伝てを預かりましたので、お時間になりましたらお迎えに上がります」


「あっはいっ!分かりました!ありがとうございます」


新しく来る子、女の子なんだ。仲良くなれるかなあ。





「ブラッドさん、随分と機嫌がいいですね」

「へっ?そ、そうでしょうか…」

「そう見えますよ。あ、報告書は問題無さそうなのでお返ししますね。ジュリウス隊長へ提出をお願いいたします」

「あ、ありがとうございます!」


任務のあとは各自報告書を出すのが決まりで、ジュリウス隊長か、隊長が不在の時はフランさんへ確認をお願いしてから提出している。はじめは直すところがたくさんあった報告書もやっとスムーズに書けるようになってきた。
フランさんから報告書を受け取って、ジュリウス隊長の予定を聞く。


「今の時間帯は、ちょうど空いているようですね。どこにいるかまではわかりかねますが…」

「大丈夫です、ありがとうございます」

「いえ…あ、それとロミオさんに報告書を出すようにブラッドさんからも言っていただけると助かります」

「あはは…了解です」

「まったく…書き方がわからないならブラッドさんのように聞きに来ればいいものを…」

「見かけたら伝えておきます」


フランさんにお辞儀をしてエレベーターに乗り込む。ジュリウス隊長はたぶん庭園だと思う。目的の階で降りて廊下を進むと、ちょうど庭園からジュリウス隊長が出てくるのが見えて走りよる。


「ジュリウス隊長!」

「ブラッド? 帰っていたのか、おかえり」

「あっはい、あの、ただいま!」

「思っていたよりも早かったな…怪我はないか?」

「はい、大丈夫です。あ、これ、報告書です。フランさんに確認していただいてます」

「了解。ブラッドは熱心な子だとフランも誉めていたぞ」

「えっ…あ、その、ありがとうございます」


ふと庭園に目をやると、隊長以外にも誰かが居たらしかった。ここはフライアの職員さんたちも来るみたいだからそこの人たちかなあ。


「あ、ジュリウス隊長、ロミオ先輩知りませんか?」

「部屋じゃないのか?」

「ここに来る前に寄ったんですけど居なくて…」

「そうか。ロミオに用事か?」

「私から、というよりもフランさんから、でしょうか…」


歯切れ悪く答えた言葉に、ジュリウス隊長は、ああ…と納得したようだった。


「報告書のことだったら俺から伝えておこう」

「あはは…よろしくお願いします」

「ああ。まったく…ロミオにも困ったものだな」


そうは言ってるもののジュリウス隊長の表情は柔らかくて、本気で咎めている訳じゃないみたい。

ジュリウス隊長について行く途中でまた庭園を振りかえる。さっきはよく見えなかったけれど、庭園に立っているその人が着ている服は、以前隊長が着ていた…。


「…!」


その人が振り返りそうなのを見て、慌てて顔をそらすと、どうかしたか、とジュリウス隊長に声をかけられて首を横にふる。


「…ええーと、その服着てくれているんですね。似合ってます!」

「ありがとう。お前とロミオが俺の誕生日につくってくれたものだからな 。ところで」


ジュリウス隊長は庭園を振り返って、ふっと笑う。


「お前は嘘が下手だな」

「あ〜、いえ…えっと…はい」

「大丈夫だ。ちゃんとあとで紹介する」

「! は、はいっ」


うきうきとした気持ちで振り返って庭園を見たら、その人と目があった気がした。




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