17 「…ん」 ぱさりと肌掛けをかけられた感覚で目が覚める。普段の制服と違い、シャツにセーターとその上に上着を羽織った私服姿のジュリウス先輩と目があった。 「悪い…起こしたか」 「い、いえ…!あのっ、ありがとうございます。どのくらい寝ていましたか?」 「そうだな…10分くらいかな。ロミオも向こうで寝ているから、お前も泊まっていくといい」 「あ、ありがとうございます……あの、ジュリウス先輩、どこかいくんですか?」 「少し散歩にな。お前も行くか?」 「ご迷惑でなければ行きたいです」 それじゃあ行こうか、ジュリウス先輩の部屋からそっとふたりで抜け出す。廊下は所々明かりがついているものの薄暗くて肌寒かった。 「どこに行くんですか?」 「少し息抜きに、な」 ぽつりぽつりと途切れそうで途切れない会話をしながらジュリウス先輩と並んで歩く。どこに行くのか、ジュリウス先輩ははっきりとは言わなかったけれど、迷うことなくたどり着いたそこはいつの日かを思い出させる。 「少し座ろうか」 「はい」 庭園の真ん中 。あの日とおんなじように木の根もとに腰かける。あの時、またこうやってお話ししたいと思ったこと、こんなに早く叶うなんて思わなかった。 「ジュリウス先輩…あの、改めて隊長の就任おめでとうございます」 「ありがとう。それと先ほどの服も…ロミオと何かしていることが多いと思ったら服を作っていたんだな」 「は、はい…!あの、ロミオ先輩に作り方をちょっとずつ教えてもらってて…さっきのお洋服もジュリウス先輩の隊長就任のお祝いにと思ってロミオ先輩と作ったんです。えっと…制服があるのにすみません…!」 ジュリウス先輩の隊長就任の話を聞いた後、ロミオ先輩と服をプレゼントしようと話をして。やっと完成した服を持ってジュリウス先輩のお部屋にお邪魔してお祝いパーティーをして。今日は本当に、楽しかった。 「前にも話した通り制服は強制じゃない。それに…お前たちが作ってくれたものを貰えたことが、すごく嬉しい」 ありがとう、と改めてお礼を言われると少しだけむずがゆくって、でもそれよりも嬉しい。 「ブラッド」 「? はい…」 「ブラッドに来た日のこと、覚えているか?」 「…すみません…適合試験の後の記憶が結構曖昧で…」 「ああ…そういえば、お前とはじめてあったのは、お前が適合失敗しかけている時だったな。正直、あのときはこうしてお前と過ごすことはないと思っていた」 ジュリウス先輩をみる。ジュリウス先輩はただまっすぐ前を向いていた。まただ。ジュリウス先輩はいつもどこか遠くを見ている。 「ブラッドは、最初俺一人だった。お前が来る少し前にロミオが来て…」 そこまでいうと、ジュリウス先輩はこっちを見た。目を、向けてくれた。 「お前にとってロミオはどんな奴だ?」 「ロミオ先輩、ですか? ううん…」 ロミオ先輩。明るくって、なんだかんだ世話好きで。はじめて会ったときから今まで、いつも私のことを気にしてくれる。ありふれた言葉でしか表現できないけれど、ロミオ先輩は。 「すごく…すごく優しい先輩です」 「そうか。俺はな、うるさい奴だと思った。俺がそんな態度だったせいかロミオも居づらそうにすることがよくあったな。 ……そんなとき、お前が配属された」 「…」 「俺が今、お前たちとこうしていられるのはお前のお陰だと思う。誰かと過ごす温かさを、優しさを…ブラッドが教えてくれた」 「そんなっ…私はなにも…」 「"友達になりたい"、そう願ってくれたのだろう? メディカルチェックの度に話しかけてくれたこと、庭園に誘ってくれたこと…。 お前が臆することなく俺に向き合ってくれたから、ロミオも俺に向き合えたと言っていた。お前にはそのつもりがなくても、俺たちが3人で過ごすきっかけを作ってくれたのは間違いなくお前だ」 は、い…。小さく呟いて、地面をみる。 「それに、名前も。今まで名前なんて大事に感じたことはそこまでなかった。今は…とても大切にしたいとそう思う」 「ジュリウス先輩…」 「お前には教わることばかりだな」 くしゃりと髪を撫でられる。はなの奥がつんとして、じわりと視界が揺れた。 「変わらないものなんてない、昔も今もそう思っている」 でも。 「お前は…ブラッドはずっとそのままで居てくれ」 それが難しいと分かっているけれど。 「、はい…っ」 純粋で真っ直ぐに、そんな子のままで。 「そろそろ戻ろうか」 ジュリウス先輩が上着を脱いで、そっと私の肩にかけてくれた。 「はい…」 私が少しでも誰かの力になれたのなら。 ジュリウス先輩が願ってくれたように、今の私のままでいられたら、いいなあ…。 腕輪をしている腕をそっと握りしめて、ジュリウス先輩のあとを追って、そっと庭園をあとにした。 . |