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「…つまり、あの子の意志の力によっての感応種に対抗できるほどの感応力…眠っていたブラッドの血の力が引き出された、ということです」


そして、と柔らかい笑みを浮かべるラケルをジュリウスは眺める。


「無理に引き出した力を制御したのが、貴方の血の力…《統制》とでも呼びましょうか。あとは貴方の知るとおりね」


ジュリウスがブラッドアーツを使用し、アラガミを討伐した後、大きく負荷がかかったせいか気を失っていたブラッドを連れてフライアに戻ってきたのは、つい数日前になる。

最も心配されたのは、ブラッドの体調の変化だった。神機使いの適合率は低い、高いがあるものの生涯ほぼ変わらないのが普通で、めまぐるしく適合率が変化するあの子は、つまり言い方をかえれば、いつアラガミ化してもおかしくない不安定な状態、ともいえる。
それも杞憂だったようで、むしろあの日以来、他の神機使いと同じように適合率に変動がなくなってきていた。


「本当に不思議な子ですね。でも、あの子がきっとブラッドに…この世界に大きな変化をもたらす…」


黒い布を隔てた向こうで、笑う気配がした。
……昔…自分が両親を失って目の前の彼女に引き取られてから、厳しい中に温かい優しさを持って、本当の母のように自分を育ててくれた彼女には感謝してもしきれない。
この人が今まで自分を育ててくれた分、むしろそれ以上も役に立てるのなら何だってやっていこうと思っている。それは、嘘じゃない。
でも。たまに。極めて稀にだが彼女の考えていることが、分からないことがある。
最近は特にそれが多く、そのどれもが、ほぼあの少女に関連してくる。


「…ラケル博士」

「どうかしましたか?」

「、いえ…話の内容は理解致しました。2人にも伝えておきますので……私はこれで、失礼致します」







「…でさあ、そん時にジュリウスが…」


病室の扉を開けばロミオとブラッドが楽しげに話をしていて、ふと2人の様子を眺める。
身振り手振りで話をするロミオ。ころころと表情を変えながら相槌をうつブラッド。

考えてみれば、ブラッドがフライアに来てから随分と時間が経った。はじめは座学ぐらいでしか一緒に居なかったのに、ロミオと、ブラッドと…3人で過ごす時間はいつの間にか多くなっていて。


「座学を始める」

「あ、ジュリウス先輩!お疲れさまです」

「おつかれー!」


座学を嫌っていたロミオも、ブラッドの影響か最近は居眠りもしなくなった。


「ああ、お疲れ様。今日はお前たちに知らせておくことがある」


だから、この時間がなくなるのは少しだけ…寂しいかもしれない。


「正式にブラッド隊を編成する事が決定した。そのため予定より早いが今回で座学を修了とする」

「ブラッドの、編成?」

「ああ。話には聞いていたと思うが、現時点で問題視されている感応種。ゴッドイーターが神機を思うように扱えなくなり、早急の対抗策が求められている。俺達"ブラッド"には以前から感応種に対抗できる力があると言われていたのだが…数日前の交戦時に、ブラッド、お前の意志の力でそれが発現されたことが確認できた」

「それって…ブラッドなら感応種に対抗できるってこと?」


ロミオの問いに軽く頷いてみせる。


「既に追加人員の候補も出ているからな…人数が増えればまとめる役が必要不可欠になる。そこで」


ロミオとブラッドの顔を見る。


「俺が、ブラッドの隊長を務めることになった」


しん、と静まり返った後、え!、えっ、と2人同時に反応を示す。


「ジュリウスが、隊長!うわ、すげっなんか、なんていうか…すっごいな!」

「はい!ジュリウス先輩やっぱりすごいですっ!」


まるで自分のことのように喜ぶ2人につられて、自然と笑みが浮かぶ。きゃっきゃとはしゃぐ2人の頭に手をおいて話を続ける。


「知らせはこれだけじゃない。…ブラッド」

「?はい…」

「先ほどラケル博士と話をして決定したんだが、ブラッドの編成に伴いお前を第一期候補生としてブラッドに迎え入れたい」


ブラッドの目が大きく見開かれる。くりくりとした大きな目に、じわりと涙が溜まっていく。


「そっか…そうなんですね」


ぽろぽろと、涙をこぼしながら、ふにゃと笑ってみせると。


「じゃあ…これからはジュリウス"隊長"って呼ばないとですね」


その言葉に、全部詰まっている気がした。
神機を手にしてから今までずっと抱えていた想いが実るような、そんな。


「ブラッドには、ロミオ、ブラッド…お前たちの力が必要なんだ。俺はそう思う。だから」


少しでも多くの想いが掌から2人に伝わるように。
願いを込めて。


「俺のことを…支えてくれると、嬉しい」

「当たり前じゃん!よろしくな、たーいちょう!」

「よろしくお願いします!ジュリウス隊長!」

「、ああ…!」


ロミオが拳をつきだす。
ブラッドがその意味を察したらしく、同じように拳をロミオの拳にあてる。2人の頭を撫でていた手をゆっくりと握りしめて、拳をつき合わせる。


「こんな時代に終止符を、というのは難しいかもしれない。だが…」

「うん」

「いつか、きっと、終わりが来る」

「はい…!」

「少しずつでいい。俺たちに……ブラッドに出来ることを、やっていこう」


真剣な顔をした2人はしっかりと頷いた。
きっと、ここから始まる。

覚悟しているよりも、きっと険しい道だろう。
それでも。
始めないことには始まらないのだから。


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