マーメイドボーイ ※ハル(→)♀主で切ない感じ 「ブラッドちゃんがもっと大人だったらなあ」 「…?」 眉尻を下げ、はははと笑うハルさんは年よりも随分と幼く見える。 首をかしげると、何でもない、そう言うだけでどういう意味かは教えてくれなかった。 「? ハルさんそれはどういう」 「はは、気にしなくていい」 「ええっうーん…?」 「ブラッドちゃんはお子さまだからなあ、秘密だ」 ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。ハルさんに子ども扱いされるのはいつものことだけれど、今日はいつもと少しだけ違う気がする。ううん…でも気のせいかもしれない。 「子どもじゃ、だめなんですか?」 ばち、ハルさんと目が合うと、ううんそうだなあと曖昧な返事が返ってきた。 「俺にとっては、まあ都合悪いが、子どもっぽさがブラッドちゃんの長所だからなー、みたいな?」 「ううん…?」 やっぱり今日のハルさんはちょっと不思議だ。そういえば、ムツミちゃんが飲み過ぎないようにって言ってたから、もしかしたらいつもより酔っているのかもしれない。 そもそも昼間からお酒を飲んでいるのもどうかと思うけれど、ハルさんはそういうところはちゃんとしているから大丈夫なんだろうなあ。 「ハルさん。ハルさん、あの、酔ってますか?」 「ん? あー…そうかもしれない、な」 うん、やっぱりそうだ。わわ、飲みすぎたら駄目ですよ、腰に回ってきた腕とぐりぐりと頭を押し付けてくるハルさんの髪がくすぐったくて笑いながら頭を撫でる。 「ん〜」 「酔っているときのハルさんは子どもみたいですね」 「子供心を忘れない大人ってのも魅力的だろ?」 「そうなんですか?」 「ブラッドちゃんはどう思う?」 「えっと…子どもだから、わからないです」 ははは、そうだよなあ、笑うハルさんはちょっとだけ寂しそうな顔をした気がする。 「あっブラッドみっけ!」 「ここにいたのか」 「ジュリウス隊長、ロミオ先輩?どうかしましたか?」 「ラケル博士から時間があるようならお茶をしないかと誘われてな。一緒に行くか?」 「あっ…えっと!」 「ああ、行っておいで。付き合ってくれてありがとな」 ぽふぽふと、また頭を撫でられる。いってきます、と笑うと、またのもうなとハルさんも笑ってくれた。 え、ちょっと、お酒飲ませたんですか。 いやいや!副隊長さんはジュースだって。 ロミオと俺の会話に笑いながらブラッドちゃんはラウンジをあとにする。 ふう、と一息つくと何だかどっと疲れてしまった。 駄目なのだ。あの真っ直ぐな瞳を見ていると、どうしようもなく惹かれてしまって。だが、自分は彼女に似合いじゃない。もっと年が近くて、彼女が気を遣わず甘えられるような、そんな…。例えば今みたいに迎えに来てくれたブラッドの先輩方みたいな、そんな奴がお似合いなのだ。 だから距離を保ちたいのに、あまりにも居心地がいいから自分から近づいてしまう。 惚れた弱味ってやつかね。 長年の愛を、大切に大切に心にしまって。やっと見えた想いが恋になる前に、今の淡いままで、どうか消えてしまえばいい。 「らしくないなあ」 やっぱり酔ってんのかね。 誰に問いかけるわけでもなかった言葉は、あっさりと溶けて消えた。 (さよなら、ブラッドちゃん。好きだったんだよ) ーーー 余談ですが、男性の人魚はmerman(マーマン)というらしいです . |