無自覚片想い





「髪、ずいぶんと伸びたな」


ジュリウス隊長に掬われた髪の毛が、指の間からぱらぱらと落ちる。こう、不意に触れてくるものだから、痛いくらいに心臓が跳ねる。
そうですか?と声が裏返ったりしないように言うと、ああとだけ答えて、机の方に歩いていってしまった。
ジュリウス隊長は案外気分屋らしいと小さく笑って、手元の書類に目を落とす。


「ブラッド、おいで」


再度、顔をあげると、ジュリウス隊長が手招きしていて、断る理由も無く素直にソファから立ち上がる。


「どうかしましたか、隊長?」

「髪の毛を結ってやろうかと思ってな」


ひょいと、簡単に持ち上げられたかと思うと、あっという間にジュリウス隊長の足の間におさまっていた。
ふわり、シャンプーとお花が混じった甘いジュリウス隊長のにおいがとっても近い。


「わあったいちょ…!」

「こら、暴れるな。変にはしないから」


そうじゃあ無くって!
言いたかった言葉は、少しだけ遠慮がちな優しい手つきのせいですっかり飲み込んでしまった。
懐かしいな、昔は下の子たちの世話をする時によくこうやって髪を結っていたんだ。隊長の柔らかい声も、優しい手つきも、全部独り占めしているみたい。で。贅沢、だなあ。


「できたぞ」

「ありがとうございます」


渡された綺麗な手鏡をそっと両手に持つと、鏡には赤いリボンで両側に髪を結われた自分の姿が映った。


「なかなか上手いものだろう?」

「はい!すごく可愛いです」


わああ、そっとリボンに触れてみる。赤地によく見ると細かな金の刺繍があしらってあるそのリボンには見覚えがある。


「このリボン…」

「ああ、気がついたか」


鏡に映る隊長は、自分の胸元のリボンに触れると、お揃いだな、ときれいに笑った。
おそろい…。


「も、貰っちゃっていいんでしょうか…?」

「お前さえよければ貰ってくれ」

「あ、ありがとうございます…!!」


とっても嬉しくて、宝物にしますね、と言えば、使わないと意味がないだろう、とおかしそうに笑われた。


「じゃ、じゃあ…あの…」

「うん?」

「これから毎日、髪の毛結ってほしい、です…」


精一杯伝えた、欲張りな気持ち。
隊長は何でもない顔で、ああ構わないぞ、そう頷いてくれたので。

朝になったら、前に隊長が美味しいと言ってくれた紅茶を淹れて会いに来ようと心に決めて。




無自覚片想い



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