ある年始のお話



※「ある年末のお話」の続き



「はー…実家のベッド久しぶりだ」

「じゃあ、バーストちゃんおやすみー!」

「はい、おやすみなさい。ノゾミちゃん、また明日遊びましょうね」

「うん!絶対だよ!あっお兄ちゃんもおやすみなさーい!」

「おやすみー」


ノゾミを見送り終わったバーストが部屋のドアを静かに閉める。俺が横になっているベッドに腰かけると、羽織っていたセーターを脱いできれいに畳む。そんな一連の動作を見守っていると、くあ、口を押さえながら控えめに欠伸をした。


「俺たちも寝よっか?」

「はい」

「ん。じゃあバーストはこっちね」


壁側をぽふぽふと叩いて示すと、バーストは小さく笑って頷いてベッドの壁側に移動する。


「いつも俺と一緒のベッドになっちゃってごめん」

「いえ…!アナグラでも同じように寝ていますし気になりませんよ?」

「それならいいんだけど…」


外部居住区にある家のほとんどは、アナグラで個々に与えられている部屋に比べたらまあ結構狭いわけで、必然的に生活スペースは限られてくる。
俺の家も例外ではなく、部屋といえば台所兼リビングに、ノゾミと母さんが使っている部屋に俺の部屋くらいなわけで、誰かを泊めるなら俺の部屋しかスペースがない。
いつだったか、以前バーストが泊まりに来たときに布団を敷くスペースがなく、一緒にベッドで寝てからは(当時は今よりお互いに幼かったしそういうの全然気にならなかったわけで)、布団を敷くスペースがあろうとなかろうとおんなじベッドで寝るのが当たり前になっていたりする。
今回も特に気にした様子もなく、モゾモゾとバーストはベッドの中に潜り込む。それから枕と毛布に顔を埋めたと思ったら、ふふと楽しそうに笑っている。


「どーしたの」

「懐かしいコウタの匂いがするなあって…」

「懐かしい?」

「はい…出会ったばかりのコウタの匂いというか…」

「そうなの?自分じゃ分かんないもんだねー。あ、でも懐かしいっていうのはちょっとわかるかも…」


和やかに会話をしていて、はたと気がつく。もしかして、バーストなりに遠回しに匂いが気になるとか、そういう話なのだろうか。今でこそ身なりは人並みに気を遣っているけども、ここの部屋をよく使っていた頃…今から3年ほど前は掃除もまともにしていなかったと思う。アナグラの自室にはじめてバーストを呼んだときも、よろしければ今度お掃除しましょうか、と遠慮ぎみに言われたくらいだ。その言葉に甘えて定期的に掃除をしてもらっていたのには、本当に頭が上がらない。


「ええっと…ごめん…その…におう、かな…」

「え…」


ぴたり、と動きが止まった。あ、これ、図星ってやつ?ちょっと泣きそうだ、なんて思っているとバーストはがばりと起き上がりぶんぶんと音がしそうなくらいに首を横にふる。


「ち、ちがいます…!そうじゃなくて、その、ただ単に安心するなあって思っただけなんです」


珍しくわたわたと慌てていたバーストは、もう一回毛布に顔を埋めると、すきです、と呟いた。
匂いが好きだと言いたかったんだと思う、けど。俺に好きだって言ってくれたみたいになってる。いやいや、付き合ってはいるんだし、俺のことも好きでいてくれてるんだろうけど!


「そ、っか…よかった」


照れているのを悟られないように誤魔化すように笑って、電気を消してから俺もベッドに入る。


「も、ちょっとこっちおいで」

「はい…あ、コウタもちゃんと毛布かかってください」

「ん…ありがと。はーあったかいね」

「そうですね」


ぐりぐりと近くにあったクッションに顔を押し付けているバーストはもうずいぶんと眠そうだ。背中に腕を回して、抱き締めながらよしよしと頭を撫でると、へにゃりと笑ってくれて。この瞬間がかなり好きだったりする。


「はあ…かわい…」

「な、んですか、突然?」

「へへっ…わっかんない!」


幸せっていうか、好きだなあっていうか。もうわけわかんなくってぎゅうっと抱き締めながら思わず笑っちゃったら、俺につられたのか、バーストも一緒に笑いだす。


「ふふっ…コウタといると本当に楽しくて…不思議ですね…?」

「バーストが俺のことすっごい好きってことじゃない?」

「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ」


顔を見合わせて、おかしくなってまた笑う。ふたりして耳まで真っ赤にして好きなんでしょって言い合いながら笑うって、ソーマやアリサに見られたらきっと苦い顔をされるに違いない。
でも、俺がバーストに対して数年に渡って片想いをしていたのを知っているから、苦い顔をしたあとは、なんだかんだ仕方ないなあって笑ってくれるんだから俺は本当に周りの人に恵まれてると思う。


「これからもずっと好きだよ、神薙バーストちゃん?」

「ふふ…ありがとうございます。私もお慕いしていますよ、藤木コウタくん」


目を閉じる。
これから一緒に過ごす長い時間。
目を開ける度に君がいてくれたら。
それほど嬉しいことってないよ。

君が横にいてくれるから、きっといい夢が見られる、そんな気がする。




(だから何が言いたいかってずっと隣りにいてってこと!)


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