ある年末のお話




「んあ…?」

出汁の匂いと、トントンとリズムよく野菜が切られていく音。
しばらくベッドの中で丸まっていたものの、空腹に耐えられなくなりよろよろと起き上がる。
自室にある簡易キッチンでは、見慣れた後ろ姿が忙しそうに動き回っていた。


「おはよ…」

「おはようございます」


振り返ったバーストは、少しだけ笑って、ちょうどよかった朝御飯出来ますよ、と手際よく盛り付けをしていた。
ちなみにバーストがアナグラにいるときは、大半俺の部屋に泊まっているのだけれど、ハルさんには本当にそういう年頃なのかと心配されるくらい何もない。というか、お互い上に立つ立場上、身体は日々の任務で疲れきっているわけで、ベッドに入ったらすぐに眠くなってしまうのだから仕方がないし、今のところは不満もない。あくまでも今のところは。


「お昼にはアナグラを出ますよね?」

「うん、そのつもり」

「お洋服は昨日詰めましたし、あとは…」


年末。実家に帰るための準備は俺よりもずっとバーストの方が忙しそうだ。俺の荷物の心配ばかりしているけれど、自分の方は出来たのだろうか。それを開くより先にバーストが口を開いた。


「あ、それからですね、コウタがアナグラにいない間に緊急の任務が来た場合、私が引き受けるつもりです」


…ん?


「その他、チーム編成の不手際があった場合の対処や、新人が入った場合の指導…それらがないときはソーマとアリサの補助とそれから…」

「ちょ、ちょっとまって…!バーストってたしか、俺とおんなじだけ休みだったよね?」

「はい。お休みはいただきましたが…私はアナグラに残りますし、手伝えることはやるつもりです」


…どうやら、俺とバーストの間には大きな認識違いがあるらしい。


「あのさ、バースト」

「も、勿論お休みはきちんととりますよ? コウタのお部屋も迷惑でなければお掃除しておきます」

「そうじゃなくて!俺、バーストと二人で俺の実家に帰るつもりなんだけど!」


ぴたり、と。動きが止まった。ぱちぱちと数回目を瞬いた後、えっとえっと、混乱をし出したバーストにもう一度言葉を繰り返す。


「俺と一緒に、俺の実家に行こうよ」

「で、でも…」

「母さんとノゾミにはもう伝えてあるし、ノゾミなんてバーストちゃん来るのってもうおおはしゃぎ」

「あ…う…」

「母さんも新作の料理味見してほしいって言ってたし…だめ?」

「だめ、じゃ…ない、ですけど…」


でも、あの…困ったように目を伏せるバーストに顔を寄せ、なにか不安なの、と尋ねる。


「家族で過ごす日を、邪魔したくありません…」

「なんだ、それなら心配ないって。だってバーストならもう家族みたいなもんじゃん?」

「え…それは…」


ほわり、頬を紅くしたバーストに首をかしげる。と、バーストははにかむ。


「…プロポーズみたい、で照れますね」

「…あ」


言われてみれば、そうかもしれない。う、あー顔あっつ。久しぶりだな、こんなに照れるの。


「…コウタがよければ」

「うん」

「私も…行きたい、です」

「うん!」


一緒に行こうよ、手を握ったら、お世話になります、とどこまでも礼儀正しいバーストらしい返事をしてくれた。




(ただいまー)
(おかえりー!お兄ちゃん!バーストちゃん!)
(おかえりなさい、二人とも)
(はい…ただいま、です)


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