15 「っ」 装甲を展開して、アラガミからの攻撃を受け、横から飛びかかって来たアラガミを蹴りではね飛ばす。 アラガミは神機でしか傷つけることはできない。それは分かっている、けど…神機が思うように動かない。 ぐっと神機の柄を握ってアラガミを見る。 今まで何回か先輩たちがアラガミを討伐するのを見てきたけれど、青い鮮やかな毛色を持ったオウガテイルなんて見たことない。 「っ…!!」 幸いなのは、このアラガミが3、4体から増える様子はないということ。まるで何かがこの子達を統率しているような…。 その時、影が落ちた。 「な…」 空から勢いよく向かってきたアラガミをステップでかわして、間合いを取る。 「…あれは…?」 手と翼が一緒になっている姿はシユウ種に似ているけれど、見た目はサリエル種に寄っているかもしれない。毛色は、周りのオウガテイル達と同じで…アラガミに統率とかあるかは分からないけれど、この子が周りをまとめているように見える。 「! ーっ…ぁ」 アラガミが大きな鳴き声を発した瞬間、腕に鈍い痛みが走る。 身体の周りを先程の黒い靄が漂う。とっさに移動してもまとわりついてくるそれは何か分からないけれど、アラガミが生まれるときにでることを考えると、オラクル細胞とか、それに近いものだと思う。 「っい…」 ずきずきと腕輪から全身に痛みが広がってきて、思わず膝をつく。 「…ブラッドっ!」 「せん、ぱい…?」 「2人とも後退していろ」 ジュリウス先輩がアラガミに向かっていって、近くに走ってきたロミオ先輩に支えられながら立ち上がる。 「大丈夫?痛いの?」 「っ、…大丈夫、です」 ジュリウス先輩が次々と青いオウガテイルを倒していく。けれど、シユウのようなアラガミが一際大きく鳴く度に再生して。 「っや」 「わっ…!」 それに執拗に私を狙っているような動き。たぶん狙われるのは未だに身体を取り巻く黒い靄が関係しているのかなあ、と思う。 『これはっ…神機の機能が低下しています!』 無線の向こうのフランさんの焦った声。いくらジュリウス先輩が強くても、神機をまともに使えないのにロミオ先輩と私を守り続けるのは難しい…。今、私ができることは…。 「ブラッド…どっかに隠れてて。俺たちがなんとかするから」 「ロミオ先輩…!」 「守るって、約束したもんな」 安心させるように笑ったロミオ先輩はアラガミに向かっていく。 暫く2人で応戦するも、徐々に圧されてきていて、いつも通りに見えたジュリウス先輩も、息が上がってきている。 「っロミオ、あいつを連れて撤退しろ!」 「え…っジュリウスっ!後ろっ!」 「っ」 とっさにジュリウス先輩が神機を構え直してギリギリでアラガミの攻撃を受け止めるものの、私の近くまで吹き飛ばされる。 「ジュリウス先輩っ…!」 「いいから下がっていろ!…ロミオ!早く撤退しろ!」 「っ」 走ってきたロミオ先輩はさっきよりもぼろぼろで、傷だらけの手に手を掴まれる。 だめ。このままじゃ、だめ。 ロミオ先輩の手をゆっくり離して、神機を構える。 いつもと違っていうことを聞いてくれない神機。先輩たちはこんな状態で私を守ろうとしてくれているんだ…。 ロミオ先輩が、震えた声で私を呼んで、ジュリウス先輩が振り返る。 「お前、何を…神機はもうまともに使えないはずだ…!」 「…私には、まだ分かりません。誰かの命を預かることも預けることも。 …っでも…力を貰ったのに誰かを頼るだけなのは、きっと違うからっ…私も…、私も闘います…!」 アラガミが一際大きく鳴く。神機が重くて。身体は痛くて。 でも、だって…。私も、先輩たちと同じ…ゴッドイーターだから。 「おねが、いっ…動いて…!」 ずきずきと全身に広がった痛みは増すばかりで、立っているのも精一杯で。 でも、先輩たちの足手まといになるのは、絶対にいやだ…っ!だから、諦められない…! 「っ、動けっーー……っ!!」 りん、と。音がした気がした。 音が波紋のように広がる。腕輪が、どくどくと脈打った。 飛びかかってきたアラガミに向けて神機を振るう。 手に鈍い感覚が伝わってきて、どろどろとアラガミが姿を消した。 「っは、…あ…」 力がいっぱいなのに、空っぽになったような。ひどい脱力感に襲われる。腕輪なのか、自分の心音なのか、分からなかったけど、どくどくと脈打つ音に飲み込まれる。 『偏食場に大きな乱れが…っ、じ、神機の機能が回復しています…!!…いったい…これは…!? と、とにかく一度撤退を…っ!』 「無理だ…囲まれている…」 「ジュリウス…どうする…?」 辺りは次々と生まれる無数のアラガミに囲まれていて、わたしをかばうように2人は神機を構える。 「せん、ぱっ…」 「っブラッド…帰ったらすぐラケル博士のとこに連れてってやるから…!あとちょっとだからっ…!」 「…お前の意思の力、確かに受け取った。次は俺たちの番だ…だから、少し休んでくれ」 ロミオ、とジュリウス先輩が呼ぶと、ロミオ先輩は頷いて私の身体を支えてくれる。 「…ありがとう、ー…ブラッド」 "名前を呼んで下さい" ふと、前に庭園でジュリウス先輩と話したことが蘇る。 ぽたぽた、と。目から零れた涙を掬い取るようにジュリウス先輩の指が頬に触れる。 また遠くで、りん、と音が聞こえた。 でも、さっきよりもずっとずっと優しくて…あったかい。 身体の中の、無理やり引き出した力が安定していく。 「なんだこれ…すっごい力が湧いてくる…!」 「…終わらせる」 ジュリウス先輩が神機を構える。徐々に神機が力を纏ってくるのがわかった。 それを最後まで見届けることはできなくて、あたたかさに身を任せると、ゆっくりとまぶたを閉じた。 (血の力…とうとう目覚めたようですね) . |