月の下でおめでとう



※ソーマさんお誕生日記念



「こんばんは、ソーマ」

「バーストか…」

「お邪魔してもいいですか…?」

「ああ。散らかってて悪いな」


ラウンジには既にムツミの姿はなく、二人以外にも人はまばらで、大概はソーマのように飲酒中のようだった。
散らばっていた小難しい文と殴り書きでびっしりと埋まった紙を適当に集め場所を空けると、今度はそこに腰掛けたバーストが書類を広げ始める。


「ソーマ、先日話をした書類があがりましたので、ここにサインを頂けますか?」

「あいつやっと手をつけたのか…お前の負担になるのは分かっているが、書類関係は一切リンドウに回さないでお前の方で処理出来ないか?」


現在、クレイドル関連の書類はバーストが管理、処理を行っており、他のメンバーの確認が必要な場合のみ、こうしてお願いしている。
アリサやソーマは直ぐに目を通しバーストに返す。書類関係に慣れていないコウタでさえ期限の数日前には終わらせているのにも関わらず、リンドウに至っては期限ギリギリまで手をつけないのが通常だった。
あいつで止まるとそれ以下が堪らんと怒った様子のソーマをみて苦笑すると、そうですね、と口を開く。


「リンドウさんの確認が必要な部分はどうしても私だけでは…」

「まあ、代筆なんてしたらアリサが煩いしな」

「もう一度はじめからやり直しなので、皆さんの負担が増えますしね」

「そうだな…」


からり、とグラスの中の溶け出した氷がなった。


「ソーマがお酒を飲んでいるの、珍しいですね」

「なんとなくな。飲みたい気分だったんだ」


空を見上げる。
数年前から姿を変えた月を、気味が悪いという人達は沢山いた。
ひとりのアラガミの少女が望んだ、優しい願い。
それがあるから今がある。それを知るのは、一部の関係者とクレイドルのメンバーだけだったけれど、それでいいと不思議とそう思う。


「月が映っていますね」


バーストの言葉にグラスを見ると、確かに月が映っていた。


「前に本で読んだのですが、月を食べる、という無理難題を言われた人が、水面に月が映った水を飲んでそれに応えたのだそうです」


意味ありげな、はたまたそうでもないような。曖昧な話にバーストを見ると、目が合う 。


「お誕生日おめでとうございます、ソーマ」

「…知ってたのか」

「コウタから聞いたんです。ソーマは騒がしいのは好まないと思いますが、せめてクレイドルだけでお祝いをさせてくださいね。
…ソーマが、今、此処にいてくれることがとても嬉しいんですから」


丁寧に書類をまとめると、バーストは立ち上がる。


「ソーマは…?」

「もう少し残る」

「了解です。おやすみなさい。ソーマ、シオ」


ソーマと、その後ろに見える月に向かって柔らかく微笑むとバーストはラウンジを去っていった。


「月が綺麗だな」


頭に浮かぶのは、ひとりのアラガミの少女。


「なあ?」


シオ。

月を、食べるように。
月が映りこんだ酒をこくりと飲み干した。






(おめでとーそーま)



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