それは卑怯だと思うのです





※ジュリウス×GEB♀主
※発売記念企画「ear kiss」のちょっと前



「ジュリウス隊長」


ほんの少し怒気を含んだバーストの声。
腕の中に感じる温かさを離すのは嫌だけれど、自分のしていることに罪悪感を感じているのも事実なわけで。
ジュリウスは肩口に埋めていた顔を上げ、返事を返す。


「…何だ」

「いい加減に離して下さい。午前から執務を始めて今は昼過ぎですが、半分にも満たない量しか終わっていません。ですので、私でなくペンを握ってください」


ぺしぺしと、自分の腹部に回されている腕を叩き、抗議を続ける。その状態でもバーストの視線は相変わらず書類に向けられており、つまらないな、と思わず呟く。


「ひ…っ」

「…?」


びくり、とバーストの肩が揺れた。


「…何、でもありません、から。早く執務をしましょう」

「……」


何かを誤魔化そうとするようなバーストの態度に違和感を感じ、先ほどを振り返る。もう少しで、その何かに気づけそうで、気がつけないのが歯痒い、けれど。それよりも。
今、彼女が執務を必死にこなしているのは紛れもなく自分のせいなのだ。最初は、一緒に居られるのならば、と割り切ろうとした。が、自分の為にという態度を崩さず執務を黙々とこなす姿を見せられたら、罪悪感は増すばかりで。


「……すまない、バースト。実は、」

「やっ…!」


ぎゅ、と抱き寄せて耳元で呟いた瞬間、再びバーストの肩が揺れた。はっきりと聞こえた声にバーストの顔をのぞき込むと、頬が赤く染まっているのが見え、ジュリウスは目を瞬く。


「…バーストは耳が弱いのか?」

「〜っ…耳元で話さないでくださ…っ」


ぞわぞわと鳥肌が立っている様子を見て、確信する。どうやら彼女は耳が弱点らしい。
ふう、と息を吹きかけると、ひえっ、と普段とは違った可愛らしい素直な反応が返ってくる。


「こ、んなことっ…してる場合ではないでしょうっ…!書類は今日中に提出だと…」

「それなんだが…本当は明後日までだ」

「なっ…ジュリウスっ…!騙しましたねっ…やっ…」

「こうでもしないと、バーストといられないだろう?」

「公私混同はよくありません。それは貴方も同意済みでしょうっ…」

「勿論、それは理解している。…では、聞きたいんだが、私的な時間はいつ頃取ってくれる?」

「そ、それは…」


うっ、と言葉に詰まり、視線が泳ぐ。
つまり、今回、ジュリウスが嘘をついでまで彼女と過ごそうとしていた理由はそこにある。


「少なくとも、仕事上の問題で時間が取れないのなら仕方がないと思う。だが、クレイドルのメンバーに確認したところ、俺との時間が取れないわけではないと認識しているが?」

「…それは、その…あの…す、みません…」


耳まで赤く染まり、渋々といった感じで大人しくなったバーストを改めて後ろから抱きしめる。


「…お前があまりこういったスキンシップを好まないことは、分かっている」

「っ…、はい…」

「嫌なわけではないことも知っている」

「はい…」

「だから、少しずつでいいから、慣れてほしい」

「ん…」


すり、とじゃれつく猫のようなジュリウスの髪をぎこちなく撫でる。


「…できるか?」

「努力します…」


こくり、と小さく頷いたバーストを見て、こちらを向かせてゆっくりと顔を近づける。


「っ…」


ぎゅっと固く閉じられた瞼。バーストの睫毛が震えているのを見て、ジュリウスは仕方ないな、と小さく笑う。
額にひとつ、キスを落とし、もう一度力を込めて抱きしめた。





(あの、あまり苛めないでください、ね?)
(そう言われると苛めたくなるな)
(やめてください…)






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