チョコのかおりにさそわれて






ぷくり、膨らんだ頬。ブラッド区画にあるロビーのソファーにうつ伏せになったまま、時々不機嫌そうに足をばたばたさせる様は、機嫌を損ねた猫のよう。困ったように微笑んだシエルは、先程からむくれているブラッドのそばに座り、一度だけ名前を呼ぶ。


「やはり隊長とロミオ、今日は帰ってこれないようです」

「むう…」

「雪がふってしまっては、ヘリを出すのは危険ですからね」

「…チョコ、作ったのに残念でしたね」


机の上に置かれたふたつの小さな丸い箱。可愛らしくラッピングされたその中には、シエルとナナと、3人でひと粒ずつジュリウスとロミオのために作ったチョコレートが入っている。
ギルバートには既に渡した後で、3人で作ったと言ったら、部屋で食べると引きつった顔をしていた。普段のナナの料理、らしきものをみたら当然の反応かもしれない。

「砂糖は昔から保存料にも使われていますから、明日でも大丈夫ですよ」

「……はい」

「さあ、明日の任務に響きますからもう寝ましょう」

「分かりました…おやすみなさい、シエル先輩」

「おやすみなさい。また明日の朝、起こしにいきますから…」


そっとブラッドの頭を撫でたシエルはロビーを出て行く。コツコツ、シエルのブーツの音が遠のくのを聞きながら、もぞりと顔を上げて、テーブルの上のチョコレートを見つめる。そして、そっとため息をついた。


「…食べちゃいますからね」


早く帰ってきて下さい、と。ゆっくり目を閉じる。早く朝になってほしい。そうすれば、きっとジュリウスとロミオが帰ってくる。起きて待っていようかと、考え始めた頭は既に微睡み始めていた。


「、ブラッド」

「ん…」

「おーいブラッドー、風邪引くぞー」

「あ、…?」


目を開ける。ロミオの顔が間近にあった。ぼんやりとした頭では状況がよく分からずぼーっとロミオを見つめる。


「せん、ぱい?どうしたの…雪は?」

「ちょっとマシになったから帰ってきたんだよ。お前、ロビーなんかで寝てたら風邪引くぞー」

「…ゆ、夢じゃない?」

「大丈夫だ」


ジュリウス隊長が歩いてきて、手に持っていたブランケットをブラッドの肩にかける。


「ジュリウス隊長…ロミオ先輩…」

「ブラッド?どうかした?」

「〜っもう、遅いですよ!バレンタイン終わっちゃいます」


バレンタインの日に会えたことが嬉しくて、2人に抱きつく。


「おかえりなさい…」

「…ああ、ただいま」

「ただいまっ!寂しい思いさせてごめんな」


手を握ったり頭を撫でたりしてくれるジュリウスとロミオに、ブラッドはくすぐったそうに笑いながらテーブルの上にあったチョコレートを2人に差し出す。


「これ、バレンタインのチョコレートです」

「えっ、まじで!ありがとな!」

「ありがとう」


なぜかはわからないけれど。2人に会えたことがうれしくて、幸せで。
溢れそうになる涙をそっとこらえる。

それを隠すために、シエルとナナと3人で作ったんですよ、と言うと、「ナナも…?」とロミオが呟いて、ギルバートと同じくやっぱり2人も引きつった顔をした。





(な、なんかこのチョコからい!)
(シエル先輩が、香辛料を使いたかったらしくて…)




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2014
Happy valentine&ジュリウス隊長ロミオ先輩おかえりなさい!



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