10 「ふああ…ブラッドさ、そんな本読んで面白い?」 ついさっきジュリウスの座学が終わって、ブラッドと遊ぼうとしたら、ブラッドはなんか小難しい内容の本を読みたいみたいで、分厚い本と向き合っている。 「はい、ロミオ先輩も読みますか?」 「俺はいいよ…。座学も真面目に聞いてるし、ブラッドって勉強好きだよな」 「ジュリウス先輩の座学は内容が難しいですけど、分かりやすいです」 「俺は勉強って嫌いだな。マグノリア=コンパスに居た頃も授業嫌だったし」 思い返せばあの頃は1日の大半が勉強だった気がする。成績は良い方じゃなかったけど、悪いと厳しめの罰があったしそれなりにやってたけど。 「ブラッドって成績よかっただろ?」 ブラッドの真似をしてぶらぶらと足を揺らして隣に座ってるブラッドに聞くと、ブラッドは小さく笑って首を横に振った。 「私、学校って行ったことなくて」 「へ?」 「お父さんのお仕事の関係で小さい頃から色んな場所に引っ越していたんですけど、学校って殆どの場所には存在しないんです。あったとしても、裕福な家の子しか行かないのが結構普通で…」 いつの間にかブラッドは本を閉じていて、俺はただフライアの外の話をじっと聞く。 「その、私も機会がなかったわけではないんですけど…蜘蛛の痕が日によって身体のあちこちに出ちゃったりしてて…だから、お家でお母さんに字を教えてもらったりしてました」 「……」 「…先輩達はすごいと思います。私の知らないことをいっぱい知ってて…」 ブラッドの話は俺からしたら全く想像がつかない。家族はいないのが普通で、勉強は当たり前にさせられるもので。だけど、ブラッドには家族がいて、最低限だけを教わって。どっちが幸せかとか俺には分かんないけど。 「学校って、行ってみたかったから…今はジュリウス先輩にいっぱい教えて貰えてすごく楽しいんです」 「…じゃあ、さ」 ジュリウスみたいに頭がいいわけじゃないけど、ブラッドが外の世界を教えてくれたみたいに、俺にしか教えられないこともきっとあるから。 「俺もブラッドに色々教えてやる」 「えっ…本当ですか…!」 「うん。ジュリウスみたく難しいことは分かんないけど…」 「充分です…!ありがとうございますっ」 顔を輝かせて本当に嬉しそうに笑うブラッドを見て安心する。 やっぱりこいつは俺が気にかけて見ててやんないと…。 「とりあえず俺が教えられることかあ…」 「えへへ、楽しみです」 「んー…」 期待した目を向けられると、早くも前言撤回したくなる。教えられることなあ…。……そういえばブラッドっていつもパジャマだよな。まあ当たり前と言えば当たり前なんだけど…もっと、こう、可愛い服とか着せてやりたいな…。 「あ」 「?」 「それだ!」 「ロミオ先輩?」 「服だよ、服!ブラッドに似合う服!下で買ってやるから見に行こうぜ」 「えっ…い、いいんですか…!?」 「お前ふっつーに可愛いんだからもったいないよ」 そうと決まれば善は急げだよな。 ベッドから下りて急いで靴をはいてブラッドの手を引っ張る。 もし、いいのがなくても一緒に考えてさ。必要な素材は俺が集めてくればいいし。 教えるのとはちょっと違うかもしんないけど、これも俺にしかできないことだろ。 「服買ったら、とりあえず着替えてそんでジュリウスに見せてさ、その後は庭園行って…んーと、花の勉強とかしてさ…そしたら…」 昼下がり、今日一日じゃ絶対やりきれない予定を立てて。 まあ、明日も明後日もあるんだし。 気にしないってことで。 (フライアで楽しく毎日が過ごせるのは、きっとロミオ先輩のおかげだね) _ |