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開けた窓から入ってくる風がぱらぱらと本のページを撫でる。窓の外を見ると、フライアは相変わらず荒廃した土地をゆっくりと走っているみたいだった。


「元気、かなあ…」


ぽつりと言葉が出る。
…今はお家からどれくらい離れた場所なのかな。いつお父さんたちに会えるのかな。
…あいたい、なあ…。


「ブラッド!」


ノックなしで病室に入ってきたのは、いつも太陽みたいに明るいロミオ先輩で、ジュリウス先輩はロミオ先輩に半ば強引に引きずられているみたいだった。


「出かけようぜ!」

「えっ…?どこに行くんですか?」


待ってましたと言わんばかりにロミオ先輩は、にっと笑ってジュリウス先輩の腕を掴んでいない方の手で、私の手を取った。


「庭園だよ!約束してただろ?」

「!」


どんどん歩いていくロミオ先輩に手を引かれているせいか、小走りになりながら廊下を進んでいく。


「庭園…!出来たんですね…!」

「そうそう!さっきラケル博士に聞いてさ、ジュリウス連れてすぐにブラッドのとこに来たんだよ」

「ロミオ…いい加減離してくれ」

「着いたら離す!」

「……」


はあ、と隣りからため息が聞こえてきて苦笑する。うーん…ジュリウス先輩、やっぱり嫌だったのかな…、なんて考えているうちに、ロミオ先輩が着いたぜ、と明るく笑う。


「わあっ…」


エレベーターの扉が開いた瞬間、カラフルな風景が見えて思わず声がもれる。


エレベーターから降りると、ふわりと甘いにおいに包まれて、大きく息を吸い込む。

「ねえ、先輩っきれいですねっ!」

「ああ!すっごいな…!」


しゃがんで、近くにあった見たことのない植物を眺める。これ、全部お花なのかなあ…すごいなあ…。


「このお花の名前何かなあ」

「それは、チューリップだな」

「え?」


後ろを振り向くと、腰に手を当てて立つジュリウス先輩がいた。


「ちゅー、りっぷ?」

「詳しくは知らないが昔の言語で頭巾から名付けられたと聞いたことがある」

「ジュリウス先輩…お花、詳しいんですか…?」

「今回の庭園を造るにあたり俺も少なからず協力したからな」

「本当ですか…! あの、私、本で見てからお花が大好きでっ…あれっあれは何のお花ですか?」

「ああ、あれは…」


私とロミオ先輩がどのお花を指差してもジュリウス先輩は答えてくれる。


「ジュリウス先輩!次は…」

「どれだ」


お花を踏まないように気をつけながら庭園の中を動き回る。


「あれっ、…が…」


ふと。ジュリウス先輩の手を引いていたことに気がつく。ジュリウス先輩は繋がれた手を気にする様子もない。ぽかぽかと温かくてじっと繋いだ手を見つめる。


「どうした」

「いえ、なんでもないです。んーっお外にいるみたいで気持ちいいですね」


繋いだ手はそのままに、ジュリウス先輩を見上げて微笑むと、少しだけ笑ってくれた気がした。それから一通り見て回って、大きな木の下の根元に3人で並んで座る。


「…ロミオが」

「はい?」

「お前のことを心配していた」

「え…?」

「最近、元気がないからと言っていたな」

「ちょっ、ジュリウス!そこは俺の名前出すとこじゃないだろっ」


どこかあきれた口調のロミオ先輩を見ると、やれやれといった仕草をしていて、ジュリウス先輩は不思議そうに首を傾げていた。


「そうだったんですか…2人とも、ありがとうございます」

「何か悩みがあんの?それなら俺とジュリウスでズバッと解決するぜ!」

「いえ…悩みがあるわけじゃなくて…ただちょっと……さみしくて」

「寂しい?」


だらしなくのばしていた足を折り、膝に顎をのせる。庭園内は本当に気持ちよくてどこからともなく鳥の鳴き声が聞こえてきそうな気さえする。


「お父さんとか、お母さんとか、元気かなって……その、先輩達は家族と会えなくて寂しくないですか…?」


誤魔化すように笑って2人を見ると2人ともどこか困った顔をして。首を傾げるとロミオ先輩が俺たちさ、と言葉を探しながら口を開いた。


「家族とかいないからさ、寂しい、とかよくわかんない」

「…、え…?」

「マグノリア=コンパスって知ってる?フライアの一画なんだけど、そこの養護施設で育ったんだよな、俺もジュリウスも」

「……」

「俺、親のこととか何も覚えてないしさ。それにゴッドイーターになる前はフライアから出たことも無かったし」

「…ご、めんなさい…私、無神経でした…」


今の時代は、身内が居ることが当たり前じゃないのに。2人みたいに、小さい頃に両親を無くした人だっていっぱいいて、それなのに…。


「そんな顔すんなって!」

「だって…」

「俺…さ、今は毎日すっげー楽しいよ。マグノリア=コンパスに居た頃より全然楽しい。ブラッドとか、まあジュリウスみたいな友達できてさ、3人で居るの結構好きだし…」

「ロミオ先輩…」

「ブラッドの住んでたとことか、家族のこととか、もっと知りたいっていうか…うん、だからさ、俺とジュリウスにもっと色々話してよ」

「…っはい!」


何から話そうかと考える。住んでいる場所、大好きな家族、優しい友達…話したいことはいっぱいある。


「フライアに来る前はどこらへんに住んでたの?」

「極東に外部居住区って言われてる場所があって、半年くらい前、かな。それくらいからそこに住んでます」

「極東の外部居住区、か。聞いたことがあるな。あそこはアラガミの激戦区だと…。だが、外部居住区は数年前から住人の受け入れを拒否しているはずだが…」

「はい…お父さんのお仕事の関係で、特別に…」

「ふうん。ブラッドの父親って何の仕事してんの?」

「お医者さんです。ジュリウス先輩の言ったとおり極東支部は激戦区で、人手が足りないからって聞きました」

「ブラッドの勉強好きなとこって父親譲りなんだなー」


ロミオ先輩が納得したように言うと、ジュリウス先輩もそうだな、と頷いていた。

他にも、近所の優しいおばあちゃんの話や、お母さんのお料理の話…たくさん話をして。


「なんか、いいなあ家族って」

「……」


ロミオ先輩が大きく息をはきながらそうつぶやいて、ジュリウス先輩は何もいわないでただ後ろの木に寄りかかった。


「…ラケル先生が、言ってたんです。フライアに居るときはブラッドが家族だって」

「同じ『P66偏食因子』を体内に有していることを家族と比喩するのなら、そうなるな」

「つまり、俺達って兄妹ってこと?」

「ですね」

「兄妹かあ…なんかくすぐったいっていうか…んー変な感じ」


そう言いつつロミオ先輩はどこか嬉しそうで、私も先輩達が兄妹って思ってくれるならすごく…うれしい。


「家族、か…」

「お友達だし、家族です」


ジュリウス先輩の目をまっすぐに見て頷くと、ジュリウス先輩は小さく、ああ、とだけ呟いた。





(だから、ロミオ先輩と私から逃げないでほしいんです)





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