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「いきます!」


見慣れてきた訓練所で神機を手にダミーと模擬訓練を行う。
初めて訓練をした日以降、体調を見ながら少しずつ訓練をするようになって…不思議とあのとき以来、神機に違和感を感じることもなく。

最近、ロミオ先輩はジュリウス先輩と本格的に実地訓練に行くようになって、ひとりでフライアに残ってお留守番をする間は、少しでも2人に追いつきたくて自主的に訓練をするようにしている。


『今日はここまでにしましょう。お疲れ様、ブラッド』

「はい!ラケル先生、ありがとうございました」

『ブラッド、この後少し付き添ってほしいのだけれど』

「? はい、分かりました」

『ありがとう。では、訓練所を出た区画のー…』



ラケル先生と合流して、車椅子を押しながら目的地に向かう。
案内通りに進んでいくと、そこはラケル先生のお部屋のある区画で、車椅子を押す速度を落とすとラケル先生は小さく笑った。


「部屋に戻るわけではありませんよ。つきあたりの部屋に行きたいの」

「あっはい!分かりました」


言われたお部屋の扉を軽くノックをして開けると、そこには実地訓練から帰ってきていたらしいジュリウス先輩とロミオ先輩、そして赤い髪をした綺麗な女の人がいて、少し驚きながら軽く頭を下げる。


「えっブラッド? なんでここに…」

「先輩たちこそ…ここって誰のお部屋なんですか…?」

「ジュリウス、最近はブラッドも体調が良いようだし、そろそろ局長にご挨拶しておこうと思うの」

「成る程、用件は承りました。ブラッド、こちらへ」

「? はい…」


ジュリウス先輩に言われるがままにロミオ先輩の横に並んで立つ。ロミオ先輩はじっと私の顔を見て、何か言いたそうに反対側にいるジュリウス先輩を見る。


「なあ、ジュリウス、俺は嫌だな…」

「……」

「…無視しなくたっていいじゃん…。ジュリウスだってブラッドがなんか言われたら嫌だろ?」

「…?あの、」


ジュリウス先輩とロミオ先輩を見上げながら口を開くと、乱暴に扉が開かれた。


「いつになったら無人の神機兵は完成するんだ!」

「す、すみません…」

「もういい!早く仕事に戻れ!」


開かれた扉の向こうで、男の人が誰かを怒鳴っていて、思わずびくりと肩がはねる。


「…大丈夫」

「先輩…」


ぎゅ、と指先を少し握ってくれたのは隣りにいたロミオ先輩で、するりと指を撫でられて手が離れていく…目が合うと小さく笑ってくれた。


「まったくいくら注ぎ込んでやってると思っているんだ…ああ、皆、ご苦労。フライアは変わりないか?」

「はい。全てはグレム局長のお陰です」


赤い髪の女の人の言葉を聞いて、大柄な男の人は機嫌良さげに笑った。


「ジュリウス君、といったか…ブラッドでの活躍は聞いている」


光栄です、とジュリウス先輩はいつもの凛とした声で答える。


「見ない顔がいるが…君の部下か?」

「はい。ブラッド、局長にご挨拶を」

「は、はい…ブラッドです。あの、初めまして…」

「ふん。ゴッドイーターには見えないが使い物になるんだろうな。…まあいい。せいぜい上の命令はよく聞くことだな。そんなことより…レア君、例の予算編成の件だが」

「はい。いくつかのプランをご用意しておきました」

「流石レア君は優秀だな。他は下がっていいぞ。ジュリウス君、部下の教育は厳しくしてくれ」

「…了解致しました。では」


ジュリウス先輩に合わせて頭を下げたあと、ロミオ先輩に優しく背中を押されて部屋を出る。そのままラケル先生の部屋に移動して、ぱたり、とジュリウス先輩が控えめに扉を閉めると同時にロミオ先輩は大きく息をつく。


「はあ…息苦しかった…」

「あの、今の方は…」

「フライア…この舟の最高責任者のグレム局長です」

「局長…?」

「フライアへの資金提供、及びに管理をされている。このフライアは彼のお陰で動いているようなものだ」

「グレム、局長…」

「隣にいた赤い髪の美人さんは、ラケル博士の姉ちゃんなんだぜ」

「えっ…!」


ロミオ先輩の思わぬ言葉にラケル先生を見ると、いつも通りの穏やかな表情で、ふふ、と小さく笑った。


「レア博士はグレム局長の秘書であるだけでなく、神機兵の研究も行っている優秀な科学者だ」

「そ、そうだったんですか…私、今度もう一回ちゃんとご挨拶します…」

「ふふ、心配しないで。お姉様にはブラッドのことをよく話していますから、貴女のことをよく知っているわ」

「…うう…それでもちゃんとご挨拶させてください」

「ブラッドがそう言うのなら、今からもう一度お姉様に会いに行きますか?」

「えっ?でも、今はグレム局長とお話を…」


ラケル先生は、難しそうな機械を操作して、ゆっくりと首を横に振る。


「グレム局長はお忙しい方ですから、もう行かれてしまったようです」

「そうですか…じゃあ私、ちょっと行ってきます」

「俺とジュリウスもついて行くか?」

「大丈夫です!ラケル先生、失礼します」


お部屋を出て、グレム局長のお部屋の扉をノックして開ける。赤い髪の女の人…ラケル先生のお姉さんが、私を見て小さく声を漏らした。


「あら、貴女は…。どうしたの?グレム局長ならもう出かけてしまったけれど」

「いえ…その、レア博士に会いに来ました」


レア博士は、一瞬目を見開いてから可笑しそうにくすくすと笑う。あ、あれ、私、恥ずかしいこと言っちゃった、かな…。


「貴女、ブラッドにしては気の利いた返しが出来るのね。覚えておくわ」

「?…あ、あの、改めてご挨拶をと思って…私は、ブラッドと言います。…ラケル先生と先輩たちにはいつもお世話になっています」

「ええ、貴女のことはラケルからよく聞いているわ。ジュリウスやロミオとも仲良くしてくれているみたいでありがとう。今後とも仲良くね?」

「はい…!」

「あと、出来れば私とも仲良くして欲しいのだけれど」

「! あのっ、お世話になります」

「よろしくね、ブラッド」


差し出された手に手を重ねる。レア博士は、私の腕にはめられたら腕輪を見て、ほんの少し悲しそうな顔をして、反対の手で腕輪を撫でてからゆっくりと手を離した。


「またお話しましょうね」

「はい! 失礼します」


頭を下げて部屋を出る。閉めた扉の向こうで、レア博士が何か呟いた気がしたけど、ここから聞こえるのはおかしいから…多分気のせいだと思う。

でも、ひどく悲しそうな疲れたような響きに聞こえたのは…?

しばらく立ち止まっていると、ブラッド、と優しい響きで名前を呼ばれる。顔を上げると、ラケル先生がお部屋の前にいて、ジュリウス先輩が扉を押さえていた。


「少しお話しませんか? ジュリウスもロミオもいますよ」

「はい…」


暖かくて優しい誘いに断る理由もなくて…。
ゆっくりとラケル先生のお部屋に入った。




(あの子が…ラケルのお気に入り、なのね)





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