去年も今年も来年も ※長編番外編 「こほこほっ」 ぴぴぴ、と小さな電子音が響き、服の中から体温計を取り出し、ラケルに渡す。 「少し熱がありますね。軽度の風邪だと思うけれど、今日はもう休みましょうか」 「…はい…」 「ブラッド、辛くなったらすぐに呼んで下さいね」 「わかりました」 「おやすみなさい、ブラッド」 部屋からラケルが出て行くと、ゆっくり照明が消される。ベッドに座ったまましばらくぼうっとしていたブラッドは、風邪からくる寒気を感じてのろのろとベッドに潜り込む。 最近は適合率も安定してきていて調子も良かったのに、今度は風邪を引いてしまった。少しだけ自分の身体が憎たらしくなる。 「先輩たちと居たかったな…」 あと数時間で1年の終わりと始まりを迎える。今年たくさん一緒にいて、来年も一緒にいるだろう2人を思い浮かべて、じわりと涙がにじむ。 がら、と。 小さな音がした。 「…だれ?」 「ブラッド?起きてんの?」 「ロミオ、少し声を抑えた方がいい…。ああ、ブラッド、起こしたか?」 「せ、先輩…?どうしたんですか?」 「しっ…ロミオ、誰かくる」 「えっ…ブラッド、ちょ、ちょっと入れて」 「えっ、えっ!」 ロミオが慌てながらベッドに入ってきて、困惑しながらも横による。 「悪い。うまく誤魔化してくれるか?」 「は、はい」 ジュリウスがベッドの物陰に隠れたのと同時に病室のドアが開く。誰かいなかったかと言う医者に見なかったと返すと、特に言及されることもなくドアは再び閉められた。 2人に事情を聞くと、どうやら2人は年越しを一緒に過ごそうとしてくれていて、こっそり忍び込んできた、らしい。 そこまでは嬉しかった。 けれど、何故か今、普段ブラッドが眠っているベッドに3人で横になっていて…暖かいけれど、恥ずかしい。 「俺さ、こういうのやってみたかったんだよなあ」 「川の字で寝るやつですか?」 「それもだけど…夜中に忍び込むとか、そんなやつ」 「ラケル博士には説教されると思うが…」 「こう考えるとジュリウス付き合いよくなったよなー」 「お陰様でな」 「ふふふっ」 はじめに比べたら随分と仲良くなった2人を見て、ブラッドは笑う。 「そろそろ時間になるな」 「はい。あの、ジュリウス先輩、ロミオ先輩…今年はありがとうございました。また、来年もよろしくお願いしますね」 「こちらこそ、ありがとう。来年もよろしく頼む」 「これからも3人仲良くしような!」 「はい!…あ、」 遠くから0時を知らせる鐘の鳴る音がした。 「新しい年の始まり、か」 ブラッドの背中に回されていた腕にこめられる力が強くなる。不思議に思ってジュリウスを見上げると、暗くて表情はわからなかったけれど、声が柔らかくて安心する。 「何があってもお前達は…必ず、俺が守るから」 「ばっか!俺だっていつまでも守られてないって」 「私も…もっともっと頑張ります」 お互いに意志を伝えあい、誰からともなく笑う。それからしばらく夜更かしして、やっと寝るために黙る。 両側の2人に抱きしめられながら、明日はラケル先生に怒られるかなあ、と頭の片隅で思い小さく笑う。 枕元に置かれた2人の手を取って握ると、2人とも強く握り返してくれた。 (去年も今年も来年も) (ずっとずっと、一緒に) きっと。 2013年はありがとうございました! 2014年もよろしくお願いいたします(^^) _ |