泣かないで、ジュリエット ※ストーリーねたばれあります ※悲恋ちゅうい いつも通り。みんな。みんな。 あんなに泣いていたのが嘘みたい。 「すっかりいつも通りですね…」 シエルに言われて周りを見回すと、笑いながら雑談するコウタさんやエリナちゃんの姿が見える。 「あっ…す、すみません! …無神経でした…」 「ううん、いいの。本当のことだもん」 「…隊長…」 隊長。 未だに慣れない呼び方に、身体が重たくなる。 「さってと、今日もロミオ先輩に会ってこようかな」 「…はい…お気をつけて…」 「また後でね」 シエルにひらひらと軽く手を振り、フライアに向かいながら、帰りには螺旋の樹にも寄ろうと考える。 『あっひょっとして噂の新人さん?』 『俺はロミオって言うんだ』 『ブラッドは甘くないぞ、覚悟しておけよ』 初めて会ったときの人懐こい笑みが頭から離れない。 嘘みたい。もう、一生……。 『お前に分かるわけないんだよ!』 『俺は俺なりに頑張ろうって、そう思ったんだ』 何も出来なかった。 何か私にできた? 『な、なんで…俺なわけ…?』 『わっ私が聞きたいですよ!どう考えたってジュリウス隊長とかギルのほうが格好いいしっ…!よりによって、先輩なんて…!」 『おい…仮にも好きな奴にそういうこという?』 『すっ…!!』 『赤くなってやんのー!案外可愛いとこあんじゃん』 『うっうるさいですよっ!先輩のチビっ!』 『なっ…これから伸びんだよ!そんなこと言ってっと返事返さないかんなっ』 『いっ…いいもんっ返事なんて分かってるもん!』 かわいげのない私を茶化しながらいつも構ってくれた先輩。 結局、告白の返事を聞くことは無くなってしまった。 「ぜ、んっぱいい…っ」 涙がぼろぼろと流れてみっともない顔になりながらやっと庭園にたどりついて、そこで先客の姿をとらえる。 「…っなんで、またあんたがいるのよっ…!」 「おお、ジュリエットじゃないか」 ロミオ先輩の眠る場所に立っていたのは、エミールだった。 異様に高いテンションのエミールを睨む。あの日から毎日、ここに通っている。そして絶対にエミールはいた。 何故かは知らない。2人の接点なんて思い浮かばないから。 「また泣いているのか、ジュリエットよ…」 「関係ないじゃないっ…それにっジュリエットってなによ…」 エミールは私のことをジュリエットと呼ぶ。 思い返せば、私が先輩と喧嘩して何日も口をきかなかったとき、勢いあまって先輩に告白したとき、いつだってエミールが居た気がする。 「エミールこそ何してるのよっ…ここはっろみお先輩、のっ…」 ぐ、と喉がつまって言葉が出ない。ひくひくと嗚咽が止まらなくなる。 「戦友を忘れないために決まっているだろう?」 「っ…」 どうして。 みんなが忘れてしまうことを、よりにもよってこの面倒な男が覚えているの。 「君もそうだろう、ジュリエット」 「私はっ忘れられないだけだよっ…」 「そうだ、無理に忘れる必要はない!辛いことを積み重ね人は強くなるのだっ!」 よく分からないけれど、エミールのスイッチが入ってしまったらしい。 いつも通りうるさくなったエミールを見ていたら、なんだか無性に泣けてきた。 「っ、うわあああああああん」 「うおお!? ど、どうしたんだジュリエット!」 あわて出すエミールに言葉を返す余裕も無くただただ泣く。こんなに大声で泣くなんて子供の時以来だと思う。 「うあああああっせん、ぱっ…あああああ」 どこから用意したのか、エミールはティーポットとカップを取り出しお茶を淹れ始めた。 「ハーブティーを飲んで落ち着くんだ!さあ!」 意味わかんない。 本当にエミールってなんなの。 「む…だ、駄目か…ならばコウタ隊長直伝の一発芸とやらを披露しよう!」 その後も…食べ物でつってきたり、襟巻きで涙を拭いてきたり、一人で劇を始めたりとよく分からないことを繰り返す。 「もう、なによお…エミールのばかっ」 ゆっくり泣いていることも出来ないじゃない。でも、少しだけスッキリした、かな…。 「あ、ああ…やっと泣きやんだな…」 ぜーはーと荒い息を尽きながら、なんとも殴り倒したい顔でエミールはハーブティーを差し出してきて、反射的に受け取ってしまう。 「泣き疲れた姫にしばしの休息を!」 「……」 いらない、とつき返したかったけれど、たまにはいいかな、と思い直してカップに口を付ける。 少し冷めたハーブティーはちょっぴり苦くて優しい味がした。 (エミール、おかわりってある…?)(珍しく素直じゃないか!ジュリエット!)(殴りたい…) 一昨日、ふと、ロミオ先輩が居なくなってユノちゃんがレクイエムを歌っているシーンを思い出して泣きそうになったときに、エミールさんの登場シーンを思い出して涙が引っ込んだのが今回の元ネタでした エミールさんには何度腹筋を持っていかれたことか… _ |