メイキングバースデー 「シエル先輩、シエル先輩」 にこにこと笑うブラッドはフリルのついた可愛らしいエプロンを差し出しながら首を傾げた。 「みんなで一緒にケーキを作りませんか?」 「あ、駄目ですよ、ロミオ…生地をあまり強く泡立てては…」 「えっまじで!? 悪い悪い!」 「苺おいしそ〜! ねーねー隊長、いっこ食べていい?」 「仕方がないな…ほら、小さいやつ」 「ありがとー!」 「うー…ギル先輩、クリームがなかなかできません…」 「しばらく交代するか?」 「お願いしますっ」 わいわいと騒ぎつつ作り上げ、少しずつケーキが完成していく。オーブンから出したスポンジが冷めるまでギルバートが淹れた紅茶を飲みながら他愛もない話をする。 ロミオのエプロンがひよこ柄で可愛いという話だったり、ジュリウスが意外にも不器用だったという話をしたり……笑いの絶えないこの場を、シエルは柔らかい表情で眺める。 今日は、素敵な1日になった。 そう思ってひとり微笑む。 「あっそろそろいいかも!」 ブラッドの弾んだ声に、みんなが立ち上がり、スポンジを囲む。 「少ししぼんじゃったかな…」 「初めてにしては上出来ですよ」 「そうだな。飾り付けちまおうぜ」 たっぷりの生クリームに、小ぶりながら甘い苺。カラフルなチョコレートにキラキラと輝くスプレー。そして、今回のケーキの主役である、ブラッドオレンジを飾り付ける。 「ブラッドケーキ、完成ですね!」 「いえーい!」 ロミオとナナとブラッドが手を合わせて喜んでいる様子を見て、ギルバートとジュリウスも柔らかい表情で笑う。シエルも出来上がったケーキを見て満足そうにしている。 「ねえ、せっかくだし、極東のみんなと食べようよ!」 「そうだな。俺たちで運ぶからシエルとブラッドは飲み物を頼む」 「はいっ!シエル先輩行きましょう」 「ええ」 2人が厨房から出たのを確認し、ジュリウスは残りのメンバーを見ながら唇に人差し指をあて、悪戯っぽく笑った。 「俺たちも急ぐぞ」 「ラジャー!」 両手に紙コップとジュースを抱え、ブラッドは食堂の前に立つ。 「すみません、シエル先輩…ドア開けて貰って良いですか?」 「もちろんです」 ゆっくりとドアを押した瞬間、パンパンとクラッカーが弾ける。 「きゃっ!」 「シエル、ハッピーバースデー!」 「…え?」 悲鳴を上げ、目をつむっていたシエルはゆっくりと目を開ける。 色とりどりの折り紙で作られた装飾が施された食堂に、ブラッドをはじめ極東支部の面々も見られた。 「あ、あの…これは…」 「さーさーシエルさんは今日の主役だよ!」 マイクを持ったコウタは人懐こい笑顔を浮かべると、ブラッドにウインクで合図を送る。 「シエル先輩、こっちです!」 近くに待機していたハルオミとギルバートに飲み物を任せ、シエルの腕を引いて先ほどのブラッドケーキの前に案内し、手を離す。 「おめでとう、シエルちゃん!」 「これ、俺たちからのプレゼント!」 「!」 ロミオとナナが差し出すラッピングされたプレゼントを躊躇いがちに受け取ると、シエルはうつむいてしまう。 「お料理沢山あるから食べて下さいね」 「私たちもお手伝いしたんですよ」 「アリサも作ったのか…?」 「ちょっと、ソーマは失礼ですよ!」 「ほらほら、2人ともケンカしない! エミールとエリナもだぞー!」 あたりを見回したシエルは、右手で顔を拭う。 「シエル先輩…?」 「す、すみません…つい、嬉しくて…。こんな風に、誰かに祝って貰ったの…すごく……すごく久しぶりです」 頭の中にセピアがかった記憶がぼんやりと蘇る。まだ、父と母が生きていた頃に毎年行われた誕生日会。 「みなさん、ありがとう、ございますっ…! 嬉しいです…!!」 「ああ。おめでとう、シエル」 ジュリウスが涙をふいているシエルの頭を撫で、ブラッドがシエルの腰に抱きつく。 「生まれてきてくれて、ありがとう…シエル先輩」 「私も皆さんに会えて、本当に本当に良かったです」 ブラッドの様子を見守っていたコウタは一つうなづいて再びマイクを握る。 「それでは、みんなで声を合わせて! せーのっ」 (Happy birthday!) シエルちゃんお誕生日おめでとう…!! だいすきです! _ |