噂の彼女と青少年 ※「酔っ払いと青少年」のその後 ミッションがあるというバーストについていくと、雪の降り積もる寺院跡地でヘリから降りる。 「ちょっと遅くなっちゃったけど、始める前に今日のミッションの確認しようか。バーストが1人で手に負えないようなやつなの?」 「あ、いえ…その…」 「んー?」 「実は…嘘なんです」 「…え?」 横に立つバーストを見ると俯いていて表情は分からない。 嘘、とはどういうことなのか。 「ミッションあるって、言ったの…嘘なんです…。その、ただ、私……、っごめんなさい…。すみません…」 「バースト…?」 バーストは泣き出しそうな顔でコウタを見上げる。そんな空気ではないのに、可愛いなあ、なんて思う。 「本当は、ソーマの研究に必要な素材の収集を支部長づてに頼まれまして……支部長が、その…コウタを誘って、ふ、二人きりで出かけておいでと……」 「つまり、それって…デートして来ていいよってこと、だよね?」 「! っ……はい」 消え入りそうな声で肯定の言葉が聞こえる。どうやら榊博士の差し金らしい。三年前、エイジス計画の際に榊博士が支部長代理となってからバーストは何かと研究やらを手伝わされることが多く。今回もその延長線のようだったが、最近はコウタもバーストもお互いに忙しく、2人の時間が取れなかったのに気付かれたのかもしれない。 「本当にすみません…折角リンドウさんが帰ってきていらっしゃるのに、お邪魔してしまって…」 「全然!リンドウさん暫くは極東にいるらしいしさー。それに、俺としてはリンドウさんと同じくらい極東にいられない彼女と一緒に居たいなあって」 「か、かのっ…!! …はっはい…あの…、私も…コウタと、その、いっしょ、に居たかった、ので…わがままを言ってしまいました…」 真っ赤になりながらたどたどしく自分の思いを伝えてくれる彼女を無性に抱きしめたくなる。 「…っ、バースト、ちょっとだけごめん」 「え…?」 勢いのままバーストの腕を引いて、ゆっくりと抱きしめる。驚いて固まっているのか、腕の中のバーストは大人しいままでいる。 「ああ、もう…ほんと可愛い…」 同じくらいだった身長に違いが出たのはいつだっただろうと、バーストのつむじを見て、ふと思った。 腕の中に収まるこの子は、こんなに小さかったのにいつだってリンドウを、コウタを、アリサを…第一部隊を支えてくれた。 「ねえ、大好きだよ」 「…!」 「初めて会った時も、初めて一緒にミッションを受けたときも、俺の家族の話をした時も、エイジスの時に見送ってくれた時も、ハンニバルから庇ってくれた時も、リンドウさんに逃げるなって言ったあの時も……」 「……こうた…?」 「ずっとずっと、大好きだったよ」 君がいつもリンドウを目で追っていたあの頃に、そんな君を見ている奴が居たなんて知っているだろうか。 「3年間、確かに辛いこともたくさんあったし諦めようと思ったときもあったんだ…でもさ、やっぱりバーストが好きだったから」 ゆっくりと身体を離して顔を見る。いつも強い意志が宿る瞳に今は涙が浮かんでいる。 「だからさ、きっと俺はずっとバーストが好きなんだと思う」 「……っ、はい…」 「………うああ…改めて言うと恥っずい! とにかく、これからもよろしくな!」 思いのほか近いままだった距離に気づき離れようとすると、コウタの背中に腕が回され少し強引に引き寄せられる。 「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします…」 「〜っ、任せてよ! 絶対に泣かせないから!」 「じゃあ、これは涙じゃないんですね…」 「えっ! あああーと、あれだ、嬉し涙はノーカウントだから!」 「ふふ…了解しました」 コウタがほろりとバーストの目から流れた涙を指で掬うとバーストは照れたように笑った。 …と、きらきらと白い結晶が落ちてきて、2人で空を見上げる。 「あ、雪だ」 「降ってきてしまいましたね」 「寒くない?」 「ええ。すごく、暖かいです」 「そっか、良かった……あ、じゃあさ、ずっと寒くないようにしていい?」 「? なんでしょう」 か…、と言葉が切れる。 ちゅ、と小さく音を立てて頬にキスを落とす。 「ね?」 「なっ…!」 バーストは顔を真っ赤にして抱き合ったままの状態から慌てて離れる。 「風邪引く前に素材集めてどっか行く?」 「そ、素材は私が集めますからっ!コウタは戻ってくださいっ!ではっ」 「わ、バースト待ってよ!ごめんって!」 いつも通りに戻ったバーストを見てコウタは笑う。 そして、脱兎の如く逃げ出したバーストの背中を小走りで追いかけた。 (…で、キスも出来なかった上に自分が風邪を引いたというわけですね) (あああ口にすればよかったああ…なんでほっぺにしてんだろ俺…げほっげほっ!) (コウタ本っ当に格好悪いですね、どん引きです) (ううー…バースト…次はいつ帰ってくるんだろー…) _ |