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ガシャンッ。
大きな音を立てて訓練所の扉が閉まる。


『これから訓練を始める』

「はーい」

「は、はい…」

『では、神機を手にとってくれ。お前たちから見て左側の壁に立てかけてある。』


無線から聞こえるジュリウスの声に従って左を見ると適合試験以来にみる自分の神機と、隣りにはブラッドの神機よりもかなり大きい神機があった。


「っと。ほら、ブラッドも早く」

「あ、え…」


手を伸ばして、躊躇う。初めて神機に触れた瞬間を思い出し、ぞわりと鳥肌がたつ。

「大丈夫だって! 腕輪してられるってことは、適合したってことだろ?」

「は、はい…分かりました…」


そろそろと手を伸ばし、神機の手前で固まる。しばらく見つめてから、えいっと勢いをつけて柄を掴んだ。


「……」

「…な?大丈夫だったろ?」

「よ、良かったあ…」


はああ、と大きく息をついて手にした神機を眺めてみる。
全体的に黒を基調としていて、細かい装飾が施されていた。試しに軽く振ってみる。特に違和感もなく一安心した。


『準備が出来たら部屋の中心まで来てくれ。…まずは、とにかく身体を動かしてみろ。ストレッチ代わりになる』

「ブラッド、こっち!」

「ロミオ先輩?」


ロミオ先輩は端にあった高めの段差を簡単に登ってみせる。


「先輩、すごい!」

「お前も出来るって!試してみろよ」


疑いつつ力を込めて地面を蹴ると、ロミオの言うとおり確かに出来た。


『見事適合した場合、神機が扱える他に飛躍的な身体能力の向上が得られるんだ』

「わ、すごいっ…なんか楽しいですね…!」

「向かいにある段差も登ってみようぜ」

「はいっ」


自分の身長よりも2倍以上高い段差の前に立ち、ジャンプしてみる。先ほどみたいに楽々ではなかったにしろ問題なく登ることができた。


『大丈夫そうだな。では、さっそくだがダミーを用意した。ロミオに指示を仰ぎながら倒してみてくれ』

「まずはとにかく実戦してみるってことで、ちゃちゃっと終わらせようぜ!」

「分かりました!」


ダミーと呼ばれたものに目を向けると黒い物体がぐにゃぐにゃと動いていた。


「う…ちょっと怖いですね…」

『それもオラクル細胞で構成されているいわば人工のアラガミだ。攻撃能力はないから安心していい』

「ブラッド、見ててよ」


ロミオは重たそうな神機をなんなく持ち上げダミーに振り下ろす。そこから回転しつつ神機を横に振ると、ダミーはどろどろと消えていった。


「すごい…!ロミオ先輩格好いいです」

「だろー? さ、お前の番だぜ」

「やってみます!」


神機を握り直す。扱ったことはないのに自然と身体が構えを取る。これも腕輪の力なのかな、と考えながら思うままに神機を振るう。数回切りつけた後、切り上げながら一回転。そのまま地面に着地する頃にはダミーが消えていた。


「ブラッド、上手いじゃん!そんな感じでばんばん倒していこうぜ!」

「はいっ」


次々と現れるダミーをできる限り倒していく。ロミオが技を溜めている内にブラッドが切りつけ、下がると同時に技がきまっていく。モニターから2人を見ていたジュリウスは感心したように声を出す。


「初めてにしては連携ができているな」

「2人の神機の相性もいいのかもしれませんね」


あっという間に設定した数のダミーが倒され、ロミオとブラッドは背中を合わせて立つ。


「もう終わり?」

『目標数の達成を確認した。あとは形態の変化をさせて戦闘を行い、本日は終了する』

「了解!」

「形態、変化?」

『ああ。神機には形態が三種類あり…といっても例外はあるが、それは明日の座学で説明する』

「げ、明日は勉強やんの…」

『今日の分の補講だな。話を戻すが、形態は三種類あり、一つ目に今お前たちが使っているのが剣形態だ。 これからやってもらうのが銃形態と言って…』

「俺やって見せるよ! 説明はまた明日ってことで、な?」

『お前な…まあいい。』


溜め息とともにジュリウスの呆れた声がし、ブラッドはくすくすと笑う。話長いんだもんな、とロミオは悪戯っぽく片目を閉じてみせた。


「切り替えるのは簡単でさ、ただ、銃形態って思えばいいんだ。たしか…、あ、そうそう、昨日勉強した腕輪の偏食因子が関係してるんだった…と思う…まっこんな感じだな!」


がしゃがしゃとロミオの持つ神機が音を立て、背丈ほどあった刀身が収納されかわりに大口の銃身が現れる。


「わあ、便利ですねー!」

「ブラッドもやってみ?」

「了解です!」


どきどきしながら銃形態に切り替える。


「んっ…!」


ずきり、腕輪から鋭い痛みが走る。思わず神機を手から落とす。痛かったのは一瞬だったはず、だが。ずきずき、腕輪から痛みが広がっていく錯覚を起こす。


「ブラッド?なんかあった?」

「……」


ロミオの声に応えることなく、ブラッドはじっと腕輪のついた利き手を見つめる。


『…痛むか』

「……、いえ」


神機に手を伸ばす。ゆっくりと柄をつかむ。何ともない。


「大丈夫です」

『…予定変更だ。今日の訓練は以上とする。2人とも神機は元あった場所に置いてくれ』

「…分かった。ブラッド、終わりにしようぜ」

「はい…」


神機を置く。
腕に残った痛みの感覚がいつまでも思い出されていた。





(お疲れ様。…よく頑張ったな)
(うまくできなくて、ごめんなさい…)







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