そばにいるから
見事、バレットが結合崩壊を起こしていた場所に当たり、グボロ・グボロが断末魔をあげ動かなくなる。
「っし!いっちょあがり!バーストと合流すっか」
煉獄の地下街という名の通り、マグマに囲まれたここは、立っているだけでじりじりと焼けるように熱い。
つま先に当たった小さな石ころが、マグマめがけて飛んだ。ジュッと音を立て、あっという間に消え去っていく。
「うえー、気をつけないとな」
バーストを探して走っていくと離れた場所からセクメトの声がした。どうやらユウとアリサの方も終わったらしい。
「おっ」
Yの字の道を右に曲がると、まだ平和だった頃、電車と呼ばれていた乗り物の近くに小柄な我らがリーダーが立っているのを見つけた。近くにはもう一匹のグボロ・グボロが倒れており、じっとマグマを見つめている。
「?」
ゆっくりと歩いて近づいていく。こちらには全く気付いていないようだった。これが、俺じゃなくて、リンドウさんなら気付いたのかなあとなんとなく思って、頭を振った。
「っ」
「…え」
どこか覚悟をした表情のバーストは、ゆっくりと足をマグマに浸し、ジュワッと音がなる。先ほどの石が頭を過ぎる。
「…っにしてんの!」
「えっコウ…」
バーストの後ろから腹に腕を回し、引き寄せる。勢いがつきすぎたのか、そのまま2人で尻餅をついた。
「何してるんだよ!これに触ったら駄目だって知ってるだろ!?」
「は、はい、あの」
「っリンドウさんのこと…?」
「え…」
「リンドウさんのこと、辛いのは分かるよ。それを隠してるのもちゃんと知ってる。でもさ、バーストには俺らがいるじゃん」
できる限りの力を込めて抱きしめる。ほんと、小さいなあ。
「俺さ、お前も知ってる通り、家族を守るためにゴッドイーターになったんだ」
「…」
「俺にとっては、やっぱり家族って一番大事だし、何をしたって守りたいと思う。でも、バーストのことも守ってやりたいって思う」
「えっ…」
「なんか、ほっとけないんだよなあ、バーストのこと。いっつも無理ばっかするし」
「ありがとう、ございます」
こっちを振り向いたバーストと目が合う。にこり、と嬉しそうに微笑んだ。
「助かりました。榊博士からは大丈夫だとは聞いてはいたんですが、やっぱり少し熱くて」
「…え?」
「コウタが引っ張ってくれなかったら危なかったですね」
すり、とバーストは履いていたブーツを撫でた。
「あの、実は、榊博士に新しいブーツの試用を任されまして。グボロ・グボロ堕天種の素材を使ったものでマグマに耐性があるものらしいです」
「…俺、ひょっとしてすごい勘違いしてた?」
「お、恐らくは」
思わず両手で顔を覆う。自分の行動を思い返したら、すごく恥ずかしい。
「(告白っぽいこと言ってるし!)」
「でも、あの…嬉しかったです。コウタは本当によく気が付いてくれますね」
「…なんでも、言ってよ。リンドウさんの代わりにはなれないけど」
「いえ、いいんです」
ゆっくりとバーストは立ち上がる。
「誰も誰かの代わりになんてならなくていいんです。だから、いつまでも私の自慢の仲間たちでいて下さい」
手を、差し出される。向こうからユウとアリサの声が聞こえてきた。
「当たり前だろ。俺はずっとバーストの側にいるよ」
手を取って、立ち上がった。
…ゆっくりと、握った手を開いた。そこに体温のない一枚のカードがあった。
「最低だよな、俺…」
サクヤやアリサみたいに、いられたらいいのに。
俺は行くと伝えたとき、バーストは頷いた。ごめんなさい、本当はコウタの邪魔をしたくないのに、と。謝るのはむしろ俺の方なのに。おかしいだろ、そんなの。
もうじき、夢が叶う。
家族に安全な毎日をって。
なのに、なのに、なのに。
「ごめんっ…!」
「バーストっごめんなっ…!!」
いっそ、バーストは望まないだろうけど無理にでも連れて行こうかと、ふと思う。
どこまでも自分勝手な俺自身に嘲笑して、目を閉じた。
(なあ、バースト)
(いつだって側にいると言った気持ちは、確かに嘘じゃなかったよ)
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