リンドウさんと新型兄妹





「…? あれ、まだ来てないみたいだね」

「…」


あたりを見渡していた兄にこくり、とひとつ頷く。


「今日から実地訓練かあ…」

「…」

「僕たちも早く先輩たちみたいになれるように頑張らないとね」

「、はい…」

「お?もう来てたのか」


ふりかえるとフェンリル製の服に身を包んだ少しだけ髪の長い男性が軽く手をあげながら歩いてきた。彼が今日の教官らしい。


「時間厳守だな。関心関心」

「初めまして。先日、第一部隊に配属されました、神薙ユウです。こっちは妹のバーストっていいます。今日はよろしくお願いします」


ゆっくりと深く頭を下げると、あ〜そんなにかしこまんなくていいぞ、という声が聞こえて頭をあげた。


「俺は雨宮リンドウ。一応、第一部隊のリーダってやつをやってる。お前さんたち実地訓練は初めてだよな?」

「はい」

「んじゃあ、とりあえず命令を3つしておく。死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ。もし隙を見つけたらぶっ殺せ…ん?これじゃ4つか?
…ま、死ぬなってことだ。返事は?」

「分かりました」

「了解です…」

「よし、じゃあはじめるか」









「お疲れさん 。じゃあ個人面談するから…とりあえず、ユウ、お前は辺りを警戒しておいてくれ」

「了解です」


兄が数メートル先まで歩いていったのを見てから、リンドウさんはこちらを向き直す。


「実地訓練はどうだった?」

「…すみません、でした」

「ん?いやいや責めてるわけじゃあないぞ?」

「………」


ふりふり、首を横にふるって地面を見る。全然うまくできなくて、リンドウさんとお兄ちゃんの足を引っ張ってしまった。
やっぱり。いつだって。


「ご迷惑…お掛けして、ごめんなさい…」


私ってだめ、ですね…。誰にも迷惑なんてかけたくないのに。あのとき…。そう、あのときに、決めたのに。


「…今日見てて思ったんだが、お前さん神機使いむいてるな」

「!」


地面に落としていた視線をちら、と上に向ける。こっちを見ていたリンドウさんと目があって、慌てて目をそらす。


「アラガミが怖いか?」

「……」


ぎゅう、隊服の裾を握りしめてこくんと頷く。怒られる、でしょうか。それでも、本当のことだから。


「そうか。じゃあやっぱり神機使いに向いてるな」

「なぜ、ですか。私…私は、お兄ちゃんみたいになれないです……」

「ん〜…お前さん生き残る神機使いってどんな奴だと思う?」

「……強い方では…」

「それもあるが、一番は臆病なやつだな」

「………」

「俺がそうだったからなあ」


ぐしゃぐしゃと、髪を撫でられる。こういうことに慣れていないのか、力加減ができていなくて少しいたい。


「俺からしたらお前さんの兄貴の方が心配だな。勇敢つうか正義感が強いやつほど先に逝っちまう」

「っそれは…いやです……お兄ちゃんは唯一の家族なんです…」

「分かってる。だからな、お前さんはそのままでいい。突っ込んでいっちまう奴をサポートできるようなそんな戦い方を身につけたらいいさ。なにも、強襲するだけが神機使いじゃない。神機使いが皆そんな戦い方してたら誰も生き残れないだろ?」


ふう、リンドウさんがゆっくりと煙草の煙をはく。
私の、ままで…。それで…いいのでしょうか…?


「いいんだよ」

「!」

「お前さん案外わかりやすいなあ。お人形さんみたいな女の子なんて聞いてたが、人形みたいなのは器量のよさだけだな」

「!!」

「人形みたいに黙って言われたことだけやんなくていい。自分を殺すな。お前さんにはバーストっていう立派な名前があるんだぞ?」

「人形にだって、名前はあります…」

「人形はそうやって思ったことを言えないさ。あ、だからって命令違反しろとかそんな意味じゃないぞ?」

「ー…」


不思議な、人だと思った。するすると、絡まった何かを解いてくれるような。


「お、そうだそうだ。そうやってちょっと笑ってた方が可愛いぞ?女は愛嬌っていうしな」

「……」


慌てて口許を隠すと、リンドウさんはおかしそうに笑って、また頭を撫でてくれる。やっぱりちょっとだけいたいです。


「お前さんにあった戦い方をするやつが知り合いにいてな、今度そいつに指導してもらえるように上にいっとく」

「…第一部隊の方、ですか?」

「ん?いや…第二部隊の隊長兼防衛班の班長だな。とっつきやすいやつだから安心していいぞ」

「…はい」

「んじゃ、兄ちゃんと交代な。呼んできてくれるか?」


こくんと頷くと、もう一回くしゃくしゃと頭を撫でられた。


「……お兄ちゃん…」

「うん?交代?」


こくこくと頷く。分かったありがとね、お兄ちゃんがリンドウさんに近づいていく途中に振りかえる。


「リンドウさんが」

「…?」

「第一部隊の隊長でよかったね」


先ほどのやり取りを見ていたのか、お兄ちゃんはそう言って笑った。リンドウさんがお兄ちゃんを呼ぶ。はーい、返事をしたお兄ちゃんは慣れた手つきで私の頭を撫でてからリンドウさんのもとに走っていった。





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