見ない振りをして





「お前の同期はいい奴だなあ」

「、は…い」


目の前に座るリンドウさんが、思い出したようにそう言った。同期、とは。自分の知る限りではユウとコウタになる。前者は同期でなく兄と言うだろうし、恐らくリンドウさんはコウタのことを言っているのだと結論づける。


「お前にとっちゃ、少しばかり騒がしいかも知れんが、このご時世あそこまで真っ直ぐな奴は珍しいぞ。大事にしろよ」

はい、と小さな声で返事をして、リンドウさんに買ってもらったジュースをちびちびと飲む。手が、ひどく熱いせいか口に含んだときには既に少し温くなっていた。


「コウタみたいなタイプはどうだ?」

「?、…おっしゃる意味が、よく…」

「恋人にするならって話だ。ユウに比べたら、だらしないし頼りないかもしれんが…なかなかお似合いだと思うぞ?」

「……」


チク。
答えを探す。


「…コウタに、申し訳ないです」

「そうかあ…コウタは結構、お前さんのこと好意的に見てるみたいだが…」

「そんなことは、」


ないです、と。
チク。
ああ、嫌だ。知らない、です。


「私、は…リンドウさんみたいな方が…その、憧れます…」

「おっそりゃ嬉しいなあ。ありがとうな」


…全く鈍感ですね。曇りなく、迷いなく、笑って見せたリンドウさん、は。
ぐい、と缶を傾け、残りを飲む。殆ど残ってなんていなかった。


「ん?何かいったか?」

「いえ…ジュース、御馳走様でした」

「うし、じゃあ戻るか。ジュースぐらいで悪いな。給料でたらユウとコウタも連れてなんか食べに行くか」

「きっと2人とも喜びますね」


予想通り、私がジュースを飲み干したのを見計らって、リンドウさんは部屋に戻ろうと提案する。他と比べるとまだ長い何本目かの煙草を少し考えてから灰皿にこすりつけ、ソファーから立ち上がったリンドウさんの様子をぼんやりと見ながらのろのろと立ち上がる。


「なんだ、お前は喜ばないのか?」

「…いえ、私も嬉しいです。すみません…」

「冗談だからそんな悲しい顔するな。意地悪なこと言って悪かったな」


また、リンドウさんを困らせてしまった。
チク。


「リンドウさん」

「どうした?」


これ以上、彼を引き留めるのは申し訳ない。そう判断し、エレベーターに乗り込むリンドウさんをただ見送る。


「煙草、少し減らされた方がいいですよ。お身体ご自愛くださいね」

「あー…考えとく」


分かっているのか、ばつが悪そうに苦笑したリンドウさんにくすりと笑い、頭を下げる。


「では、私はこれで」

「お、任務か。じゃあまたな」


エレベーターの扉が閉まる。時計を見る。リンドウさんに会って、ジュースを買ってもらってから20分ほど経っていた。

チク。チク。
時計の針の音がなる度に、胸の痛みが強くなる錯覚を起こす。

思考を払うため頭を横に振り、エレベーターのボタンを押した。





(少しずつ飲み干したジュースが小さな抵抗だったのです)





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