薔薇の花、一本




「あっ」

「ロミオ先輩? どうしたんですか?」

「ちょっと素材回収!」


言うが早いか繋いでいた手を解いて足早に走っていくロミオをおんなのこはあわてて追いかける。贖罪の街の特徴でもある割れた大きな窓が印象的な場所で、ロミオは迷いもせずガラス片を拾っていく。


「ガラス、何かに使うんですか?」

「あ…ああ!ちょっとな」


目を泳がせながらぎこちなく笑うロミオを見ておんなのこは眉を寄せる。


「うー…先輩…なにか隠してる…」


ガラスを集めるのに集中しているロミオの耳にはおんなのこの不満そうな声は届かなかったようだった。





「で、荒れてるの?おんなのこ」

「あ、荒れてはいないよ? ただロミオ先輩が心配で…。いつも悩んでるとき強がって頼りにしてくれないんだもん」

「あ、ちょっと分かるかも。ロミオ先輩の悪い癖だよねー」

「うん…ずっと一緒にいたんだし、もうちょっと頼ってほしいよ……ほら、見てみてナナ!ちからこぶ!」

「んんー?」


微妙そうに目を細めながらナナはおんなのこの腕を撫でる。


「ううーん?」

「ち、ちからこぶだってば!」

「おんなのこがそう言うならそうかも?あっそうだ!おでんパン食べればもっと力つくよ!」

「そうかなあ…」

「きっとそうだよ!」

「あっリッカさん!よかった、やっと見つけた!」


突然響いた声はよく知ったロミオのもので、自然とナナと2人、声の方を見る。


「ああ、ロミオくんか。どうしたの」

「リッカさんが必要って言ってたガラスやっと集まったんで持ってきたんですよ!」

「え…?」


ずきり、と胸が痛む。最近、ロミオが綺麗そうなガラス片を集めていたのは…。


「おんなのこ?大丈夫?」


ナナが心配そうにこっちを見ているのに、なんだかうまく笑えなくて首を傾げる。


「ロミオ先輩に嫌われちゃったのかな…」

「そんなことないって!あ、そーだ!実は新しい料理作ったんだ!部屋にあるから一緒に試食しよーよ」

「…、うん」
気を使ってくれたナナに感謝しながら、ロミオに気付かれないようにそこを離れた。
…その日から、無意識にロミオを避けているおんなのこを見て、ロミオはため息をつく。


「俺…とうとうおんなのこに嫌われたのかなあ」

「おんなのこと喧嘩でもしたのか?」

「してないけど…おんなのこが明らかに俺のこと避けてんじゃん…」

「……」


たしか2日前、彼女から同じような台詞を聞いた気がする。ブラッドの他のメンバーよりも長く2人と居たジュリウスは、付き合い始めてから2人がお互いに遠慮がちなことをもちろん知っていた。

彼女も、ロミオも…ちょっと自信が無さすぎではないか、と小さく笑う。


「何だよ、笑い事じゃ…」

「お前達はなんだかんだ心配ないだろう。惚気を聞かされる身にもなってくれ」

「惚気ては…ない、だろ…たぶん」

「そうか。それなら悩み相談は終わりだな。ほら、早くおんなのこのところへ行ってこい」


最近、不安がっているから。
そう伝えると、目を見開いたロミオは慌てて立ち上がる。


「わ、悪いジュリウスっ!俺、行かなきゃ…また後でなっ」

「ああ。……全く世話の焼けるやつらだな」


ジュリウスはいつの間にか世話好きになってしまった自分に苦笑しながら、中断していた報告書の続きを作り始めた。





「おんなのこっ」

「せ、んぱい…?」


反射的に身を引くおんなのこの手をとっさに掴み、逃げないように抱き寄せる。


「ろ、ろみお、先輩…」

「離さないかんな。お前が逃げるから…」


最近の自分を振り返ると、離してとは言えなくて、ぐっと言葉を飲み込む。


「だって…だって先輩が、冷たいから…」

「なんでだよ。俺、いつも通りじゃん」

「じゃあ、最近はリッカさんとなにしてるんですか?」

「えっ…」


びくり、とおんなのこを抱きしめるロミオの肩が小さく跳ねた。それを見たおんなのこは、じわじわと視界が歪む。


「私には言えないこと、なんですか…?私じゃ、先輩の役には立てなっ…」

「わ、おんなのこ…な、泣くなって…!」

「っふ、うう…」

「あーあー…先輩泣かせたー…」

「副隊長…」


ナナとシエルの刺々しい声。ロミオは自分の服の袖でおんなのこの涙を拭うと覚悟を決めた顔で、おんなのこと目を合わせる。


「あのさ、おんなのこ、渡したい物があるんだけど…」

「わたしたい、もの…?」


ロミオはポケットの中を漁ると、ぽろぽろと涙を流すおんなのこの目の前に、一輪の花を差し出す。


「これ、なに…?」

「…薔薇」


どこか気まずそうに呟くロミオの手から薔薇の花を受け取る。そこで、その花が本物ではなくガラスでできていることに気づく。


「リッカさんに頼んで作って貰ったんだ。お前、花好きだからあげたかったんだけど、本物の薔薇の花は用意出来ないから…」

「じゃ、じゃあ私のために…?」

「そういうこと。だからもう泣くなって」

「だ、だって…」


違う意味で涙が止まらなくなるおんなのこを抱きしめて、そっと唇を寄せる。


「! んっ」

「…っ、おんなのこのこと、大好きだからさ。安心しろって」

「せん、ぱい〜…!!」


ロミオの背中に腕を回して強く抱きつくおんなのこに応えるようにロミオも強く抱きしめ返す。

…みんなが集まるエントランス。

ことの成り行きを見守っていたシエルとナナを始め、何か言いたそうなギルバートやコウタも出掛かった言葉を飲み込み、そっと溜め息をついたのだった。



(そういえばなんで薔薇なんですか?先輩)
(そ、それは…あれだよ…)
(?)


花言葉
『一目惚れ』または『あなたしかいない』



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初めまして!
リクエストを頂き、ありがとうございます(*^^*)

普段は完全に友達みたいな付き合いなのに、一度火がつくと無自覚バカップルになる2人の話です。

twitterで薔薇は本数で花言葉が変わるというのを見て、ロミオさんイタリア人だし、薔薇だし、これだ!と…。

ほのぼのと甘いが半々くらいを目指しました。これでも甘い、つもり、です…。

私もこっそりロミオさん好きなのでうきうきしながら書かせていただきました!
非常に楽しかったですー!

今回は企画にご参加頂き、本当にありがとうございました!





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