微かに色づく透明な
最近、極東支部で大不評でありながら大人気なものがある。
初恋ジュースと呼ばれるそれをちまちまと飲みながら、隣りにいるおんなのこと話をする。ミッションから帰ってくると、おんなのこは必ず僕に声をかけてくれて。そこから始まるこの優しい時間が、僕自身すごく好きだと思う。
「それにしても不思議ですよね。不味いって言うくせに、みんなこれを飲むんだから」
「…怖いもの見たさ、でしょうか。初恋ジュース、レンは好きな味なんですよね」
「はい。僕はすごく美味しいと思います。貴女はあまり好きではないですか?」
「実は…まだ飲んだことがないんです」
事情を聞くと、先ほど話していたように初恋ジュースは不評でありながら売れ行きは好調で、よく在庫切れを起こすらしい。
初めて僕に買ってきてくれたあの時、運良く2人分買えたは良いものの、感応現象が起こりそれどころではなくなり…。
「最近は、長い時間支部にいることも無いのでなかなか機会がなくて…」
「今や貴女はここのエースですから。忙しいのは仕方がないですね」
「と、とんでもないです…。皆さんが支えて下さるからこそです」
「ふふふ、貴女は本当に奥ゆかしい人ですよね。そこも魅力的なんですけれど」
初めは、弱気な子なのだろうと思っていた。でも、実は彼女は誰よりも無茶をするような人で、どんなときでも強くて、優しくて……自分を持った謙虚な人なのだと知って。
彼女の魅力に気付いてしまったら、コウタのように惹かれる人も少なくはないだろうと思う。
「いいんですか、リンドウさんで」
「え…?」
「貴女のような魅力的な人は、リンドウさんには勿体無いと思いますよ?」
いつもちょっと困った顔をしている彼女だけれど、ますます困ったように眉を下げる。嗚呼、またそんな顔をさせてしまった。そっと壊れ物を扱うように頬に触れる。
「レン?」
「おーい、おんなのこ、そろそろミッションの時間だぜー」
「あ、コウタ…」
「…いってらっしゃい、おんなのこ。気をつけて下さいね」
「レン、今、何か…」
「いいえ。何でもありません」
「そう、ですか?」
「おんなのこー?もうみんな待ってるよ」
「す、すみません…。すぐに行きます」
何度かこちらを見ながらおんなのこはコウタに急かされて行く。
いつものように笑みを浮かべ手を振って見送る。
おんなのこが見えなくなって、初恋ジュースを一口飲む。
「ん、」
独特の甘さとじわじわとした酸っぱい味が口に広がる。
「初恋、か」
僕は初恋ジュースが好きだ。
それはきっと、恋なんて要らない感情を知らない僕が、恋を知ることができる気がするから。
…僕が人間だったら、初恋がどんなものか分かったのかな。
そうしたら、僕のこの感情が…何か…。
「難しいなあ、人間って」
胸にくすぶるこの感情は決して不快なものではなくて。
そうだ、これって話すという行為に似ている。暖かくって、儚くて。
それでいて―…。
…ああ、でも。
叶ってほしいけど、叶わなくていいから。
空になった缶をゴミ箱に放り投げる。ゴミ箱の縁に当たった缶は、落下音を響かせることなく跡形もなく消えていった。
(微かに色づく透明な)(こころの色は、)
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はじめまして(^^)
リクエストを頂き、ありがとうございました!
主人公ちゃんへの片想いを自覚しつつ、確証を持てないレン君とリンドウさんに片想いをする主人公ちゃんのお話です。
ほのぼのを目指したつもりですが、最後はちょっと暗めになってしまった気が…。
恋を実らせたい人間らしい面と人間とは違う自分に恋は必要ないと思っている面…レン君の持つ2つの面が表現できていればいいなあ…と、思います。
今回は企画にご参加頂き、本当にありがとうございました!
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