次はありませんように




「…でよー、ギルー。その美人さんがな……」

「ああ…はい」


今日も今日とてハルさんは絶好調、と。
心の中で誰にともなく呟いてため息をつく代わりに酒をあおる。


「あ、お帰りなさい」


ムツミの声を聞き扉の方を向くと、ミッションに出ていたブラッドの隊長と副隊長が2人そろっていた。
これは願ったり叶ったりだとギルバートは即座に2人に向かって軽く手を挙げてみせる。


「よお、ミッションお疲れ」

「ああ、ギルか。ありがとう」

「ありがとうございます。ギルさんもお疲れ様です」

「…と、そちらの方は?」


ジュリウスはギルバートに歩み寄りながら首を傾げる。ハルオミの姿を見た瞬間、おんなのこの顔が小さく引きつった気がした。先日、断りきれずハルオミに半ば強引にニーハイを履かされたのを知っているギルバートはおんなのこに申し訳なく思いつつ話を続ける。


「極東支部第四部隊長の真壁ハルオミさん。俺が前居た支部で世話んなった人だ」

「そうだったか」


ジュリウスは小さく目を見開いて居住まいを直すとハルオミを見る。


「…失礼致しました。お初にお目にかかります。フェンリル極致化技術開発局所属、ブラッド隊隊長のジュリウス・ヴィスコンティです」

「おう、お前がギルんとこの隊長さんか。この間はギルとおんなのこを借りちまって悪かったな」

「カリギュラの件ですか。いえ、こちらこそ私の部下がお世話になりました」


丁寧にお辞儀をするジュリウスの数歩後ろに側に控えるように立っていたおんなのこも小さくお辞儀をする。


「そんな畏まらなくていいって。軽くいこうぜー。…ああ、そうだ。俺、ブラッドの隊長さんにお礼が言いたかったんだ…」

「お礼、ですか?」


うまく話がずれたことに安堵しつつ、ギルバートはそっと席を立ち、このまま流れで部屋に戻ろうと計画を立てる。


「ブラッドの女子制服…本当にありがとう」

「…はい?」

「は?」

「え?」


ジュリウスに続きギルバートとおんなのこも意味が分からず声を出す。


「ブラッドの女子制服だよ。太ももの具合がすごくいいと、俺は思う。上半身のラインも悪くないんだが、やっぱり下半身のニーハイ加減が……」

「……」


困惑した表情を浮かべながらジュリウスは律儀に話を聞いている。身の危険を感じたおんなのこがそそくさと立ち去ろうとしたとき。


「そして、おんなのこはきっと何でも着こなす幻の逸材だと思うわけだ」

「ひっ!」


勢いよく立ち上がったハルオミはおんなのこの手首を掴んで引き寄せる。助けて、と目で合図を送られるが、無理だと判断したギルバートは首を横に振った。


「つまり、だ。今日一日でいい、おんなのこを最大限女性にしたいんだ、どうだろう」

「……ギル、悪いが通訳を頼む」

「…おんなのこを今日一日着せかえ人形にさせてくれ、だとさ」

「そ、そんな…!!」


さああ、とおんなのこの血の引く音が聞こえてきそうだった。


「た、隊長…すみませんが助けて頂けませんか…お、お願いします…!!」

「…申し訳ないのですが、その、部下も恥ずかしがっておりますし…」

「大丈夫、慣れればよくなるさ」

「た、たた隊長…私はよくなりたくないです…」


ハルオミとおんなのこの2人に挟まれたジュリウスは困りつつ、大切な自隊の隊員であるおんなのこの方を守ろうと努力しているらしい。
しかし、ハルオミの粘り強さには適わなかったらしく、一時間後にはジュリウスとおんなのこが2人揃って疲れ果てた顔で首を縦にふったのだった。





「よし、おんなのこ!次はこれだ!」

「ま、まだ着るんですか…」


ハルオミからフリルの大量についた可愛らしい服を受け取りながらおんなのこは俯く。


「すまない…俺がもっと強く止めていれば…」

「いえ…いいんです。隊長は1時間近く努力なさってくれたんですから」


涙目になりながらも健気に笑顔を見せるおんなのこの頭をジュリウスが撫でる。


「せめてギルさんだけでもお部屋に戻られた方が…」

「いや…そもそもの原因は俺だからな…最後まで付き合うぜ」

「すみません…ありがとうございます」


その後もプチファッションショーは続き、中には太ももから切れ目の入った露出の高いチャイナ服や、丈の短いスカートや、どこから仕入れたのか様々な制服などなど…数え切れない量を着替えさせられたおんなのこは今、胸の谷間が大きく空いていること以外は全く文句のないリボンにまみれた可愛いワンピースを着てソファーの上に正座していた。


「おんなのこは着やせするタイプだったんだな…」

「隊長やめてください…。どこを見ているんですか…」

「す、すまない…」

「ジュリウスも疲労でおかしくなってきてんだろ…」


ハルオミが飲み物を貰いに行っている間、三人はぽつりぽつりと会話を交わしながらハルオミの帰りを待ち、ハルオミが帰ってきて着替えを再開、その後しばらくしてやっとハルオミは満足したらしい。



「お疲れ!いやあ、目の保養になった」

「もう次はないことを願います…」

「切実だな…」

「そう言いつつギルもブラッドの隊長さんも結構楽しそうだったぜ?」


にやにやと笑うハルオミと驚いた顔をするおんなのこの視線を受け、ギルバートとジュリウスは顔を見合わせる。


「まあ、悪くはなかったな」

「えっ…」

「だろー?ギルー。おんなのこ、スタイル良いからなあ」

「た、隊長…」


顔を赤く染めながら助けを求める視線を向けられたジュリウスは少し考えて小さく笑う。


「確かに…可愛かった、かな」

「!〜っ、…お先に失礼します…!」


耐えられなくなったのか、おんなのこは足早に部屋を去っていく。

…その日以降、ハルオミとギルバートとジュリウスの3人が揃って酒を飲む様子が時々見られるようになったらしいと噂を聞き、おんなのこは一人頭を抱えた。





(次はありませんように…)





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初めまして!
企画に参加頂き、ありがとうございますー!

ハルオミさんに振り回されるお話でした。
ブラッドの制服ってハルオミさんが好きそうだなあと思ったので、そのネタをいれてみました(^^)
あまり着替えさせられなかったのが心残りです…。いつかリベンジしたいなあ…、と。

早くからリクエストを頂いていたのに遅くなってしまってすみませんでした…!
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

今回は本当にありがとうございました!



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