詰まるところ男の子は女の子を




※ストーリーネタバレ
※ばっどえんど



初めて会ったのは、まるで絵本のような草花に溢れるお庭でした。


「俺の名前は、ジュリウス・ヴィスコンティ。お前が配属されるブラッドの隊長を務めている。これから、よろしく頼む」

「あ、ああああのっ」


すごい早さで女の子は正座をしました。男の子は、驚いた顔で女の子を見ています。

「あまりかしこまらなくていい…」

「とんでもないです。隊長様…あの、私…」

「お、おい…どうした…」

「私、死にたくないんですー…」


ふにゃふにゃと泣き出した女の子を見て、男の子は目をぱちくりさせます。


「あ、アラガミに、ぱくって、…嫌だあああ…」


男の子は怒るわけでも慰めるわけでもなく、ただ少しだけ笑いました。


「おかしな奴だな」


もしかしたら、そのときから"あの子"の恋は始まっていたのかも知れません。



「か、帰り大丈夫でしょうか」

「大丈夫だ」

「ヘリが落ちたりとか…」

「なんでだ」

「シユウがつっこんできたりとか…」

「ないから安心しろ」


初めて会ったときから、女の子はぐんぐん強くなりました。それなのに、ずっとずっと弱かったのです。


「隊長に怒られましたあああ…」

「それを隊長である俺に報告してどうするんだ」

「だって、だって…」

「お前、俺が居なくなったらどうなるんだ」


ぴたりと女の子は泣きやみました。そして、火がついたようにまた泣きました。


「…分かったから泣かないでくれ。ああ、それと俺はフライアに戻るからしばらくブラッドを頼むぞ、副隊長」

「隊長の鬼いいい」


男の子は、いつも女の子に厳しく接していました。
女の子は、それでも男の子の後をついて離れませんでした。

はなれたく、ありませんでした。





「そう、だな…」

ジュリウスは、もう立ち上がることも出来ない自分に苦笑する。

「心残りといえば、ロミオの墓参りをしてやれなかったことだな」

冷たい床にじわじわと体温が奪われていく。

「後悔していないことは…」

まるで枝が分かれるような現象に自分の身体が包まれていく。

「おんなのこに伝えなかったことかな」


ゆっくりとジュリウスを包むものがつぼみのように膨らむ。つぼみの中心は、冷たくてどこか温かかった。


「そうか、俺は……」


急速な偏食因子の流れを感じる。これが何かもどうなるかも。そういう存在になった自分には総てがわかった。

自分を殺してくれと頼んだら…おんなのこはどうするんだろうか。
ああ、簡単だ。きっとまたぴいぴい泣くんだろう。
何故ならば。
自分が見てきた中で誰よりも自信がなくて弱虫な子だから………だからこそ、側にいてやりたかった。


「泣く、だろうな」


対峙した瞬間に、やだやだと駄々をこねる様が目に浮かんで少しだけ笑みがこぼれる。


「……おんなのこ、」


おんなのこ。
それは、なんだったか。
なにかとてもたいせつなそれは。
こわしちゃいけない。

たべてはだめ。


「…お前、につらい思いはさせない、から」


……。
…。





ある日突然あらわれた大きなお花のつぼみ。
天にも届くそのお花のつぼみは、黒蛛病を糧とし、赤い雨を水としました。
今や赤い雨は、そのお花のつぼみにしか降り注ぐことはありません。



…初めて会ったのは、まるで絵本のような草花が溢れるお庭でした。

最後に会うのは、きっと…まるで絵本に出てくるような大きなお花のつぼみがいったい何かを知るときでしょう。





(詰まるところ、男の子は女の子を)
(弱虫なあの子を誰よりも愛していたのです)


終末捕食が起きなかった話。


_____


初めまして!
この度は企画にご参加頂きありがとうございました!

ボイス20番ちゃんは、ネガティブで弱虫なイメージがあったのでそんな弱虫な20番ちゃんを不器用に護りつつ、大切だからこそ絶対に甘やかさないジュリウスさんを目指しました。
読み返してみると、あまり20番ちゃんのイメージでは無くなってしまった気がしますが…すみません、精進します。

私は書いていてすごく楽しかったです…!
少しでも気に入っていただければ幸いです。

ありがとうございました!





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