やきもちをやくおはなし




「…そんでさ、そこで主人公が…」


身ぶり手振りで楽しそうにバガラリーの話をするコウタを見て、柔らかい顔をしながらおんなのこは相槌をうつ。


「この前話した回、見てくれた?」

「はい。特に主人公がわざと嘘をついたシーンは、とても感動しました」

「そうなんだよ!さっすがおんなのこはよくわかってるよな!」

「コウタが色々教えてくれるおかげです」


小さく微笑んだ顔は人見知りなおんなのこがほとんど見せない表情で、自分にその表情を向けてくれることがとにかく嬉しい。


「お話し中にすみません。おんなのこさん、少しお時間を頂いてもよろしいですか」


声を掛けてきたのは、ブラッドの隊長であるジュリウスで、あまり関わりのないおんなのこは一瞬固まり、柔らかい表情も隠れてしまった。


「はい。どんなご用でしょうか」

「昨日に話があったクレイドルとブラッドの共同討伐作戦のことで改めて打ち合わせを行っておきたいのですが」

「分かりました。…場所を変えましょう、か…私の部屋で…」

「いえ、女性の部屋にあがらせて頂くのは…私の部屋にしましょう」

「分かりました。…コウタ、あの…」

「俺は大丈夫!ここで待ってるよ」

「はい…」

「すみません、コウタ隊長。それでは、おんなのこさん、行きましょうか」

「はい」

「……コウタさん、よかったんですかあ? おんなのこさん隊長の部屋に行っちゃいますよ?」


近場で話していたナナとロミオが近寄ってきて、ラウンジを出るジュリウスとおんなのこを見る。
コウタもストローをくわえながら、ドアを開けておんなのこを先に通す紳士的なジュリウスを見たが、特に気にもしていないのか軽く口を開く。


「大丈夫だって。ただ、おんなのこもジュリウス隊長もあんまりおしゃべりじゃないし、ちょっと心配だけど」

「はあ…。いいよなー、ジュリウスは格好良いからモテるし…コウタさんもおんなのこさんみたいな彼女が居るし…」

「先輩、モテなそうだもんねー」

「うるさいよ!」

「ははっ、まあまあ喧嘩しないでよ。俺だっておんなのこに振り向いて貰うまでかなりねばってさー…」


今日は特に予定のないコウタは、あいた時間でロミオとナナにおんなのことの馴れ初めを話したりしながらのんびりと時間をつぶす。
それそろかな、と思った頃合いに丁度ラウンジの扉が開き、ジュリウスとおんなのこが戻ってくる。


「あ、戻ってきた」

「な?何もなかっただろ?」


コップのジュースはほとんどなく、氷の間に残ったジュースをストローで吸い込む。おんなのこに声をかけようと、相変わらずストローをくわえたまま顔を上げる。


「…ああ、そうだな。ありがとう、おんなのこ。勉強になった」

「いえ…! 私も話ができて良かったです。ありがとうございました、ジュリウス隊長…」

「ジュリウスでいい。是非また話を聞かせてくれ」

「はい、ジュリウスになら喜んで」


2人の様子を見守っていたロミオとナナは顔を近づけ内緒話をするようにこそこそと話をする。


「…あれ、なんか…予想以上に…」

「仲、良いかも?」

「……」


ぽかんとした表情のコウタの口からくわえていたストローが音もなく落ちた。





分かっては、いる。
ジュリウスにも、おんなのこにも他意はないことくらい。

けれど、あの日以来なにかと仲の良いふたりを見ていると、もやもやとした気持ちが増えていくのは 、自分ではどうしようもなかった。

今日も今日とて彼女はブラッドの隊長と話し込んでおり、ラウンジで食事をとる気はどこへやら、きびすを返して逃げるようにエレベーターに乗り込んでしまった。


「嬉しくない訳じゃないんだよ」

「ああ」

「おんなのこって昔から人見知りだから誰かと仲良くなったのは、そりゃ、よかったなあって思うし…」

「ああ」

「けどさ…だけどさあ…やっぱり寂しいじゃん。特に相手はジュリウス隊長だし、やっぱ不安なんだよ!」

「ああ」


ラボラトリに珍しくやって来たコウタは、ソファに腰掛けるなり先ほどからずっとこんな調子で、仕事中のソーマにはお構い無く話を続けている。

聞いてんの、とかそういった言葉がコウタから無いところを見ると、コウタはただ本当に聞いても聞かなくてもいいから溜まった気持ちを吐き出していたいんだろう。
3年という付き合いになれば、コウタがどんな性格かは、ソーマも理解しているため、普段のように、うるせえだの出ていけだの追い出すことはしない。正直な話、それなりにうるさいとは思う。最近は静かになったと思ったが、おんなのこのことになると話は別らしい。


「…ブラッドとは、今後も長い付き合いになるんだ。まあ、いい機会なんじゃないか」


「やっぱソーマもそう思う? だよなあ…。
あ、そういえばさ、ソーマお腹空いてない?」

「あ?」

「一緒にメシ食べに行こうよ」

「…どうせおんなのことブラッドの隊長が一緒にいるとかだろ。勝手に行ってこい」


何でわかったの…と肩を落とすコウタに何年の付き合いだと思ってんだと返す。


「はあ…お腹すいたなー。おんなのこの作ったご飯食べたいなあ…」

「ここで惚気てないで行ってこい。面倒くさいやつだな」

「めんど…っ!? わ、分かってますう!」

口を尖らせたコウタは立ち上がって部屋を出ていこうとする。…だからおんなのこにだってワガママ言えないじゃん、小さく呟いた声にため息をつく。


「お前の面倒くせえところを知った上でアイツはお前といるんだろ」
「ソーマ?」

「お互いにいつまでも遠慮してんじゃねえ」

「…ソーマって何だかんだ面倒見いいよな」

「あ"?」

「ははっじゃあまたな!」



仕事中に来るな、そんなソーマの言葉を背にラウンジに向かう。ドアを開ければ、そこにはブラッドのメンバーに囲まれたおんなのこ
がいる。少しためらった後、ソーマに言われた言葉を思いだし、走りよっていく。


「おんなのこ!」

「コウタ?どうしましたか?」

「ごめん! おんなのこ連れていくね!また今度お話ししてやって!」

「えっ…あの…っ!」

「はいはあい、ごゆっくり〜!」

「あ…おんなのこさん、またの機会にお話しを聞かせてください」

「は、はいっ…あの、失礼します…!」



おんなのこの手首を握っている手があつい。とはいえ、自分の手があついのか、おんなのこの手があついのか、それとも両方なのかは分からない。


「あ、あの、コウタ…公共の場、なので…手を……」

「…あのさ、」

「! あ、あああのっ……!」


ゆっくりと手を離すと、そのまま壁際におんなのこを追い詰める。身長差を考えれば簡単に抜け出すことだってできるはずなのに逃げないところをみると話を聞く気はあるけれど、体勢が問題なようだった。


「俺たちが付き合ってるのはみんな知ってるよ」

「そうかもしれませんが…!そうではなくって…っ!」


人前でこういうことは…、口ごもる彼女に、分かってるんだけど、と呟く。


「分かってるんだよ。でもさ……寂しい、んだけど…」

「、……」

きょとりとした顔をしたままじっと見つめてくるおんなのこをじっと見つめ返す。伝わったかな。うん、大丈夫。伝わった気がする。


「…私」

「うん…?」

「コウタと手を繋ぐの、好きなんです…」

「そうなの?」

「はい…だから、あの。今度からは手を、引いてください」


手首じゃ、なくて。と。なにそれなにそれ!


「う、嬉しいけど、それ余計恋人っぽくない?」

「…人前で恋人のようなことをするのは恥ずかしいので苦手なんです。でも。でも、あの。コウタのことを自慢したいなって思ったりもするんですよ?」

なにそれ。だって、そんな態度したことなかったじゃんか。いっつも俺ばっかって正直思ってたのにさ。違ったってどんだけ隠すのうまいの!


「…おんなのこには一生敵わない気がする」

「そ、そんなことは…」

「ワリと本気で勝てる気しないもん。俺の扱いうますぎ。……手、繋いでいい?」

「い、今ですか…それは、あの」

「だーめ。拒否権は無いです」

「ええ〜…」


壁にあてていた手を離して、おんなのこの手をとる。


「あっついし手汗すごいね」

「〜っ…!コウタ、だって……っ」

「待って待って言わないで…!必死に取り繕ってんの!」

「沢山汗かいてっ…」

「いったらキスするよ…!?」

「公共の場ではお断りです!」

「おや…お二人揃って……」

「じゅ…っ」


ブラッドのジュリウス隊長。どうやらテンパっていたようで降りる階を間違えてしまった、らしい。
両手を恋人繋ぎで絡ませ、おんなのこの背は壁についたまま。つまりこれはどう見たって…。


「…ああ、成程。お二人は恋人同士でしたか。気がまわらなくて申し訳ない」


合点がいったというように頷いている。心なしか生暖かい眼差しで見られている気がして居心地が悪い。


「っ…部屋の前でごめんなさい!ちょっと階間違えちゃって。おんなのこ行こう」

「コウタ隊長」


足を止めて振り返る。いつもよりもずっと優しげな目をしたジュリウス隊長と目が合う。


「お二人の仲を邪魔するつもりはありませんので、たまには彼女をお借りできれば嬉しいのですが?」

「…努力します!」


くすくすとおかしそうに笑うジュリウス隊長に今度こそ背を向けて早足でその場を去る。

今度はちゃんと手を繋いで。
繋がれている手をおんなのこもゆっくりと握り返してくれた。





(ぐうう…)
(あ、そういえばお昼食べてないや…)
(何か作りましょうか?)
(マジで!やった!)



ーーーーー

初めまして!
今回は企画にご参加いただきありがとうございました…!
お待たせしてしまってすみません…!

付き合って数ヵ月目のコウタさんとGEB♀主ちゃんです。

コウタさんがやきもちをやく場合、大人っぽく我慢するか、子どもっぽく奪い取るかどちらかなあと悩んだ結果、どっちも入れてみました。

少しでも気に入っていただければ嬉しいです〜!

今回は企画にご参加いただきありがとうございました!
またの機会があればよろしくお願いします(*^▽^*)





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