Caffe Latte




コーヒーのにおいが、とても苦手なのだ。
独特の焦げたような苦い感じが好きじゃない。

両手で持っている小さめなカップの中の黒色の液体は、先ほどから全然減っていない。
時間がたてば甘くならないものかと淡い期待は時間がたつにつれてなくなり、時間がたてばたつほど苦くなるだけだった。

ふう、そっと息を吐いて顔を上げると、ロミオ先輩と柔らかい表情で会話をするジュリウス隊長が目に入る。
ふ、とほんの少し笑った表情に、胸が苦しくなる。苦手なコーヒーだっておいしく感じそうだと一口飲めば、やっぱり苦いだけだった。
ジュリウス隊長と、ロミオ先輩と。もしくは、ブラッドのメンバーと。こうやってコーヒーを飲みながらゆったりと過ごす時間はとても好きだけれど。ジュリウス隊長が淹れてくれるのは、いつだって苦いにおいのエスプレッソで、それがほんのちょっとだけ憂鬱なのだ。

エスプレッソは、隊長とロミオ先輩の生まれた地方で主流のコーヒーらしく、二人ともエスプレッソが好きだから、仕方がないのだけれど。


「…と、もうこんな時間じゃん。そろそろ部屋に戻るよ」

「ああ、そうだな」

「じゃあな、ジュリウス。副隊長はどうする?」

「あ…戻ります。ジュリウス隊長、エスプレッソご馳走様でした」

「ああ」


ロミオ先輩がジュリウス隊長の部屋にいる時間は大体決まっていて、その時間までにカップに一杯のエスプレッソを飲み切る。
それを残したことは、まだ、ない。


「ではまたな、副隊長」

「はい」


名残惜しい気持ちでいると、ぽん、と一回。頭に手が置かれる。
部屋に戻る前に、ジュリウス隊長が必ずしてくれる行動で、まるでエスプレッソを残さず飲めたことを褒めてもらっているみたいだ。


「また明日、今日くらいに来ていい?」

「明日までの報告書を間に合わせたら構わないぞ」

「げえ…りょうかーい」

「副隊長も同じ時間で問題ないか?」

「は、はい!」


ロミオ先輩は暇があるとジュリウス隊長の部屋を訪れる。勇気を出してロミオ先輩に同行をお願いして、それからは私も当たり前のように部屋に招き入れてくれるようになった。


「コーヒーでも淹れて待っていよう」


苦手なコーヒーでもジュリウス隊長が淹れてくれるのなら飲みたいと思ってしまうのだから、恋とは本当に不思議なものだ。




次の日の午後。いつもの時間。
ジュリウス隊長とロミオ先輩の話に耳を傾けて、ちびちびとエスプレッソを飲む。
いつもとおんなじ午後を迎える、はずだった。のに。なんで。


「(私はジュリウス隊長とふたりきりなんだろう…!?)」

「ああ、ロミオなら報告書が終わったら来ると言っていたな。コーヒーを淹れてくるから寛いでいてくれ」

「は、はいっ…」

ジュリウス隊長が部屋から出ていったのを見送ってソファのいつもの位置に座る。
ほどよく沈む座り心地のいいソファ。本棚いっぱいの少し古めの本。ふわりと苦いコーヒーのにおい。


「待たせたな」

「い、いいえ…」

「口に合うといいのだが」


不思議に思いながらジュリウス隊長からマグカップを受けとる。お礼を言ってから、ふとマグカップの中身をみると、中に入っていたのはいつものコーヒーとは少し違って。


「ジュリウス隊長…これ……」

「カフェラテにしてみたんだ。副隊長はコーヒーが苦手みたいだから」

「な、何で……」


ばれてしまったのだろう。残したことなんて、ないのに。


「いつも見ているから、かな。何となくそんな気がしてな」


そうだった。隊長は任務のときだってそうじゃないときだっていつも周りをよくみている。そのことは、いつも隊長を見ているから知っていたのに。その対象が自分もだってことをすっかり忘れていた。

うつむいたままの顔があげられない。今の顔をみられたら、きっと私が隊長のことを好きだって知られてしまうから。もしかしたら、それすらも知っているのかもしれないけど、それでも。


「…いただきます」


こくり、一口カフェラテを飲む。ミルクに包まれたコーヒーは優しい味がして、いつもと変わらないはずのにおいも柔らかい気がした。


「おいしい、です」

「それならよかった。今度から副隊長にはカフェラテを用意しておくから」

「い、いえ…っそんな…!」


がばりと顔をあげたら、口元を隠したまま小さくうつむくジュリウス隊長が目にはいる。
隊長の耳があかい。ぼぼっと顔が熱をもつ。なんでなんで。どうして。


「なにか、話をしないか…」

「そう、ですね…! えっと…」


えっと…。何を話せばいいかわからず、お互いに黙ってしまう。


「……ロミオと」

「え…?」

「一緒、ではなくてもいいから…たまには話に来てくれないか」


副隊長じゃなくて、おんなのこと話がしたいんだ。


それは、どういう意味かは分からない、けど。
苦いコーヒーは苦手だって気がついてくれたこと、私のことを知りたいって言ってくれたこと。

少しくらいは自惚れてもいいんでしょうか。


「…あの、今度……」

「…?」

「一緒にご飯、どうでしょうか…!」

「! ああ、喜んで」


付き合うとか付き合わないとか。まだお互いにそこまでの感情じゃないかもしれない。
恋をしているかだって曖昧だけれど。

まずは隊長のいうとおり、もっとお話ができたら素敵だなって思うから。






(焦れったいよな〜)
(本当にねえ〜。隊長も副隊長も…見てるこっちがむずむずしちゃうよ〜)
(二人ともペンが止まっていますよ)




ーーーーー


初めまして!
今回は企画にご参加いただきありがとうございました〜!
大変遅くなってしまい申し訳ありません…!

両片想のジュリ♀主ちゃんということで、それっぽさを目指してみたのですが、それっぽくなっているでしょうか…?
ちなみにコーヒーについては詳しくないため調べながら書いたのですが、色々間違っていたらすみません…!

この度は企画へのご参加ありがとうございました!
またの機会があればよろしくお願いします(*^▽^*)



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