ロミオと後輩
私、どうしちゃったんだろう…。
そういえば、前にジュリウス隊長とナナが話してるの聞いたなあ、と。思う。たぶん…。
"ブラッドアーツって血の力なんだよね。いっぱい使うと貧血になっちゃいそう。だからいっぱい栄養つけなきゃ"
"ブラッドアーツを使うと貧血になりそう、か。ナナは面白いことを言うな"
…もしかして、もうすぐブラッドアーツが使えるようになるのかなあ…。
「あれ、★大丈夫か? なんか顔色悪いぞ」
「は、い」
正直に言うと、かなり辛い。さっきから目の前がちかちかするし、頭も重い。
「や、やばいって…すっごいふらふらしてるし! ジュリウスたち呼ぶか?」
「だ、いじょぶ…で」
「子供みたいなこと言ってんなって!ちょっと待ってろ」
ぴぴ、小さな機械音を発する通信機をいじるロミオ。今は二手に分かれているため、この場には自分と体調の悪そうな★しかいないという状況がロミオを焦らせる。
「えっと、とりあえずヒバリさんに連絡を…あっでも隊長に指示を聞いた方が……とにかく★は座れって」
『ブラッドβ聞こえますか?』
★を座らせているとロミオの持つ通信機から聞き慣れた声がした。
「お、おうっ!」
『お二人が立ち止まったままでしたので…どうかなさいましたか?』
「あ、なあっヒバリさん!ブラッドαってどの辺にいる?」
『ブラッドαですか? 現在お二人の居る場所から東の方面で複数のアラガミと交戦中です。時間にして10分以内の距離ですが合流なさるんですか?』
複数のアラガミ…今日はアラガミ2体の討伐がミッションであったためこちらがアラガミに遭遇することはないらしいと、ロミオはひとまず胸をなで下ろした。
『ブラッド3?』
「ああ悪い。実は★が超具合悪そうでさ…」
『ブラッド4が!? 症状は?』
「顔色が悪くてふらふらしてる。熱は…無いみたい」
『貧血、でしょうか? 急いで応援を出しますので引き続き警戒をお願いします』
「分かった! とりあえず座らせたんだけど何かした方がいいのか?」
背中を壁に預けた体育座りの体制で、膝に顔を埋める。頭がぐらぐらする。それを見たロミオは、★の横に膝をつき背中をさする。
『そうですね、では…えっ!』
「ヒバリさん…?」
通信機の向こうからするヒバリの焦った声。続けてカチカチと機械をいじる慌ただしい音が響く。
『…ブラッド3、ブラッド4を連れて今すぐに移動してください!』
「今すぐにか? あー…難しいと思う」
さすった背中は汗ばんでいるのに小刻みに震えている。出来ればすぐに休ませたいくらいだった。
『では、近場に身を隠してください!早く!』
「…近くに何かいるのか?」
今の指示でなんとなく分かった。近場にアラガミがいるのだ。
『…本日の討伐対象の一体が接近中です!捕食が目的だと思われます。到着予測は…2分ほどです』
「なっ!ジュリウスたちが交戦中じゃ…」
はっ、と気付く。複数のアラガミとは聞いたが、それが皆、大型とは聞いていない。自分の浅はかな考えについ舌打ちをする。
「分かった!移動する!種別は分かるか?」
『ヴァジュラ種だと思われます』
「よりによってか…! ★立てるか?」
見ればわかる。動けるわけがないのだ。目の前にしゃがみ、背中に乗るように指示をする。背中に僅かに体重がかかった。
『まもなく到着します!』
「くそっ! ★やっぱここにいろ!」
「ロミオせんぱ…!わたしもっ…」
「いいから隠れてろ!」
神機を握り直し、捕食場所に移動する。
『ブラッド3…ロミオさん!? お一人で相手なさるつもりですか!?』
「こうするしかないだろ!」
曲がり角を曲がった目の前に、天井から落ちてくる影。
「ブラッドを甘く見るなっつーの!」
ヴァジュラに向かって神機を振り下ろす。確かな手応えとともに結合崩壊が起こったのが見えた。一瞬怯んだヴァジュラは大きく吼え、興奮状態となる。
「うっわ…」
途端にヴァジュラの動きは俊敏になり、動きの遅い自分の神機があたらなくなる。仕方なく避けるのに専念する。
『ブラッドα、対象の討伐を確認した』
『ブラッドα、すぐにブラッドβと合流してください!』
『…何かあったのか?』
通信機の向こうのジュリウスの声が陰る。つっかれたーと呑気そうなナナの声が遠くに聞こえた。
『ブラッド4が体調不良のため、ブラッド3がお一人でヴァジュラと交戦中です!』
『っ了解した!位置の送信を頼む。ナナ、行くぞ!』
通信内容を聞きながら、徐々に息が上がる。
『ロミオ、俺たちが到着するまで踏ん張れ…。絶対に死ぬなよ…!』
「はっ、わかっ、はあっ、てる…!!」
ああ、くっそ。まだ応援はこないのかよ。引くにしてもこの先には★がいる。絶対に引くわけにはいかなかった。
「!やば…っ」
ぐらりと足がもつれ、体制が崩れる。反射的に装甲を展開し、攻撃を受ける。
「ぐ、あっ!」
体制を崩したまま受け止めたせいで予想以上の衝撃に襲われる。挙げ句、壁際まで追い込まれる状況。
「はっ、はあ…っ!」
『ロミオさんのバイタルを確認しました! ジュリウス隊長急いで!』
『分かっている…!』
目の前にヴァジュラが立つ。ここまでかと思う。でも、まあ。
「はあっ…後輩を守って死ぬって言うのも悪くないかも、な…っ」
ドッ!と鈍い音を立て、バレットが貫通する。ヴァジュラが振り返った瞬間に背景が真っ白になる。
「ばっ…かなことっ、言わないでくださいっ…!」
「★!おま…待ってろって…!」
ヴァジュラが頭を振ったのを見計らって再びグレネードが発動し、真っ白に包まれる。その隙に立ち上がり、神機の力を溜める。
「決めるぞ…!!」
「はいっ!」
★の攻撃がヒットし、ヴァジュラの尻尾が砕ける。
「くらえっ!」
ドウッと表現しがたい音を立て、チャージクラッシュが決まり、ヴァジュラが倒れる。
「はあっ…はあっ…!」
「…っう」
がしゃっ!大きな音を立て、手から神機が落ちる。ぐらりと★の身体が傾き…。
「★っ!」
走りながらこちらに手を伸ばすロミオが見える。立っていられたのはここまでだった。倒れる前に、地面よりは柔らかな硬さと草と花の庭園のにおいに包まれて、意識を手放した。
(おそらく睡眠不足ですね)
(…え?寝不足?)
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