隊長と実地訓練
響くのは、ざっ、ざっ、と地面を踏む2人分の足音だけ。ちちち、とどこからか珍しく鳥の鳴く声がした。荒廃した建物の柱には蔦が伝い、地面には苔が生え、自然の中に取り込まれようとしているみたい。
「ちょっと待て」
「!」
きょろきょろと鳥の姿を探していると、前を歩いていた隊長が物陰に身を隠す。
「あれを見ろ」
隊長の背後からのぞき込むように視線を辿る。小型のアラガミが数匹、食事をしているという最近やっと見慣れてきた光景だった。
「目標、発見しました!」
『了解しました。ご武運を』
通信機を付けなおすと、指示を聞くため隊長を見上げる。
「これからミッションを始めるわけだが、今日は昨日と同じく小型のアラガミとの実地訓練だ」
こくり、と頷くと隊長も小さく頷いた。
「そろそろその神機にも実地訓練にも慣れてきたとは思うが、油断はするなよ」
「はいっ」
「それから、通常の訓練の時と同じだと思わないことだ。アラガミはダミーとは違う。いいな、柔軟になれよ。あと…」
「……」
少し神機が重くなってきてさりげなく持ち直すと、隊長は少し微笑んで見せた。
「お前の腕はそろそろ疲れだしているようだし、話は止めて始めるか」
「う、はい…」
「最後にひとつ。もっと腕の筋肉をつけておけよ」
「了解しましたっ」
ああ、やっぱり隊長には神機の重さに慣れていないことがばれていたみたい。
隊長は小さく頷き、神機を銃形態に変えた。それにあわせ、わたしも剣形態に切り変え、隊長の合図と共に駆け出した。
はずだった。
「きゃあっ」
苔に覆われた地面にすべり、どしゃりと地面にこんにちは。
「!」
「ぐるる…!」
その音を敏感に聞きつけたオウガテイルがこちらに向かって走ってくる。
「っ」
装甲に変える?それともこのまま切りかかる?咄嗟の判断が出来ず、固まる。
その隙をつき、オウガテイルが飛びかかってくる。
「ひゃあっ」
反射的に装甲を展開する。オウガテイルからの衝撃を覚悟した瞬間、ふっと神機が軽くなった。
りんっと独特の音と共に、隊長の背中が目の前に現れる。これは、前にも一度見せてもらった。隊長のブラッドアーツ、だ。
「た、いちょう」
「…いきなり転ぶのは予想外だったな」
怒られるかと思ったのに、隊長はぷるぷると肩を震わせる。
「本当にお前って奴は…」
「た、たた隊長!わ、笑ってます?」
いつだって凛としていて、余裕たっぷりな隊長が笑ってる。笑った顔、初めてみた…。
「…説教は後だ。とにかく立て。次がくるぞ」
前をむき直した隊長の背中を見ながら座り込んで呆けたままの私。やっぱり隊長は格好いいなあ、なんて考えてる場合じゃないのに…。
「…立てないのか?」
「わあっ!?」
私に気付いた隊長が振り返り、腕輪のない方の腕を掴まれ起こしてもらう。
「あ、え…た、てますっ」
しっかりと立ち上がると隊長は手を離し神機を握り直した。
「ならいい。構えろ、来るぞ」
「は、はいっ」
今度こそ、ドジしないように。
オウガテイル目指し、地面を蹴った。
(アラガミの撃破を確認しました!帰投準備に入りますっ)
(お疲れ様です)
(ところで説教するから忘れずに庭園に来いよ)
(えっ)
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