寒い日は
※隊長が振り向いたようです
季節がまわる。最近少しずつ秋を感じていたが、今日は特に寒い。フライアの見回りをしていたジュリウスは、大きく息をはく。空気がうっすらと白くなった。もう冬がくるらしい。
「ジュリウス隊長〜」
「★か」
もこもことしたパジャマ姿にぬいぐるみを持って現れた少女は、ジュリウスに近付くとぺたりと身を寄せる。
「そんな格好でどうしたんだ、眠れないのか…?」
★はこくこくと何度も頷き、ジュリウスの腰に腕を回す。
「ここは廊下だぞ」
「ごめんなさいー…でも寒くて…!」
ぶるぶると震えながら離れない★に笑って、隊長という立場上、優しく引き離す。
「燃料も貴重だからな。仕方がないだろう」
「うう…死んじゃいます…」
「大丈夫だ。ほら、手を貸せ」
差し出されたの★の手を両手で包み込む。予想以上の冷たさに驚きつつ、息をかけて温める。顔を見ると、紫がかった唇が余計に寒さを感じさせた。
「★、寒いか」
「…大丈夫、温かいです…」
小さく震えながら、へにゃりと笑う。こういうときばかり気を遣う彼女を愛おしく思う。柔らかい手をさすって温める。
「あ、あのね、隊長?お願いがあるんです…」
「なんだ」
「その、今日、一緒に寝ませんか」
「…それは…さすがに…」
「やっぱり、だ、…だめですか…?」
もじもじ、と。急にしおらしくなる。こういった恋人のようなことはまだ慣れていないらしい。
「そうだな…まあ、寝るだけだし構わないか…」
「!あ、ありがとうございます…!」
「もう少しで見回りが終わるから、先に部屋に行っていてもいいぞ」
「大丈夫!ついて行きます」
そのまま自然と手をつなぎ、他愛もない話をしながら、残りを見回って部屋に戻る。
「おじゃまします…」
「ああ。何か温かい飲み物でも入れるか」
「あっ私がやりましょうか」
「大丈夫だ。くつろいで居てくれ」
★は分かりました、と答えてから部屋の真ん中に置かれたソファーのいつもの場所に腰掛ける。冷蔵庫からミルクを取り出し温めていると、★が側にやってきて、また腰に腕を回す。
「こら、危ないぞ」
「んん、あったかいです」
「火に気をつけろよ。★は甘い物が好きだったか?」
「はい!あっ隊長は大好きです!」
「ああ、それは知っている」
棚からジャムを出す。支給品の中でも甘い物は貴重な物資だったが、普段は好んで口にすることも少なく多めに残っていた。たまには甘い物もいいかもしれない。自分の分も甘くすることに決め、多めにジャムを入れる。
「ほら、できたから向こうに行くぞ」
「はあい!持って行きますね」
★が2人分のマグカップを運んでいるうちに鍋を片付けてから、ソファーに行く。
「いただきます!」
「ああ」
「!…これ、すごくおいしいです」
「口にあったなら良かった」
顔色もだいぶ良くなったようで安心する。今日の夕飯は何を食べたとか、最近は何が面白かったとか…お互いに寄りかかりながらソファーに並んで話をしている内に★はうとうとし出す。
「そろそろ寝るか。ほら、もう少し頑張れ」
「はいー…」
返事はするものの半分眠ってしまっているのか、立ち上がる様子はない。仕方なしに抱き上げる。何度か背負ったことがあるが、その度に筋肉がついてきているのを実感する。
…隊長として部下が力をつけて居るのは嬉しく思う。しかし、恋人としてはほんの少しだけ複雑になる。
寝室まで移動して、★をベッドに寝かせてから着替える。
「ううー…隊長、どこ…?さむい…」
「ここにいるから大丈夫だ」
ベッドに入ると、ひんやりとしていて鳥肌が立つ。★も同じなのかベッドの中でぬいぐるみを抱きしめながら丸まっていた。大事そうにしているぬいぐるみは、おそらく実家から持ってきたものなのだろう。
「たいちょう…」
「うん?」
「すきです」
「…ああ」
人肌で暖をとる、とはよくいったもので確かに温かい。恥ずかしいのか、ぐりぐりと頭を押し付けてくる仕草に少し笑って★を抱きしめる。おずおずとジュリウスの背中に手が回される。
「★」
「はい」
「好きだ」
「っ…ありがとう、ございますっ」
背中に回された手に込められる力が強くなった。応えるように強く抱きしめる。
良い夢が見られるように、願いをかけて額にキスをしてゆっくりと目を閉じた。
(ジュリウス!★が部屋にいなっ…)
(あ、コウタ隊長!おはようございます!)
(!?え、え、何でジュリウスの部屋で朝飯食ってんの!?)
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