感応種





…ああ、駄目なのに。

そう、思ったときには遅くて、視界が歪む。ぼろぼろと涙が零れる。みんなが驚いた顔をする。


「★…?」

「ひっ…えっ…」


みんながすぐにそばに来てくれる。みんなは優しい。だから居なくなって欲しくないって思う。


「どした、★?どっか怪我した?」

「じゅりうす、たい、ちょお…いなくならないでくださいいいっ」

「俺はここにいるから、大丈夫だ。…感応種にあてられたのかも知れません。彼女は感応種には強い方だと思うのですが…」

「っえ、ふええっ」


ふと、思ってしまったから。
感応種は、ジュリウス隊長によく似ていると。

周りを活性化させ、導く。

それは、私達にとってジュリウス隊長で。それは、アラガミ達にとっての感応種で。
だから、目の前に倒れる感応種を見たら、何故か、涙が、止まらなくて。


「ふえええっ」

「…コウタ隊長、先に行って下さい。★としばらく歩いてから戻ります」

「ん、分かった。ヘリで待ってるよ。エリナ、行こう」

「…分かりました」


エリナは何度か振り向きながら、コウタ隊長の背中を追っていく。…暫くして、涙を拭っていた片手を引かれる。顔を上げると、ジュリウス隊長と目があった。


「こっちだ」


ジュリウス隊長は感応種を一瞥してから草原を歩いていく。自然と手を引かれる形になって、ただ隊長についていく私。


「あれが何か分かるか?」

「…? お花…?」

「そうだ。これがー…」


建物の跡地のせいか日陰がちなこの場所にも意外とお花が咲いていて、隊長はひとつひとつ説明してくれる。


「…という花言葉があるんだ」

「すごい!隊長、あれは?」

「あれは先ほど話した花の仲間で…ああ、やっと笑ったな」

「え?」


そういえば、いつの間にか涙が止まっていた。あんなに止まらなかったのが嘘みたい。


「そろそろ戻るか。あまり2人を待たせるのも悪い」

「…、はいっ」


少し残念だけど、隊長の言う通りだし、仕方ない、よね。帰ったらまたお話聞かせてもらえるかなあ。


「隊長はお花が好きなんですか?よく、庭園にいますよね」

「ああ。ひとつひとつ違いがあって面白いぞ。それに、花を見ていると自然と安らぐ。だから、お前を落ち着かせるのにちょうどいいかと思ってな」

「…はい」


草原に出る。感応種の姿はなかった。もう、消えちゃったみたい。


「…情けないな」

「?」

「皆に悩みがあるのに気付いても、気付くことしか出来ない。お前たちがもがいているのに、手の伸ばし方が分からないんだ」


感応種が倒れていた場所を眺めたまま隊長は呟く。


「感応現象でも起こらない限り、理解してやれない」

「隊長…」

「…ああ、すまない。忘れてくれ」


何事も無かったように歩いていく隊長の背中が少しだけ遠かった。急いで走っていって、いつの間にか離していた手をもう一回繋いだ。


「、どうした?」


ふるふる。頭を横に振って、ただ手を強く握る。


「…お前は不思議な奴だな」

「?」

「いや、なんでもない。行くぞ」


コウタ隊長とエリナの待つヘリに着くまで、繋いだ手は離されなかった。



(隊長は、感応種みたいだと思う)
(いつだって迷わないように手を取って導こうとしてくれるから)




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