駄々っ子
「やだやだ!もう歩けないですっ」
「…じゃあどうするんだ」
「おんぶしてください。じゃないと帰れないですっ」
「……仕方がないな。ほら。ああ、神機は自分で持ってろよ」
しゃがんだジュリウスの背中に体重を預け、顔を埋める。ゆっくりと歩いていく。
「昨日は、お疲れ様。防衛任務は初めてだったか」
「……」
「★、」
「……」
「泣くな」
背中があついから、と訴えてみる。
「だめでした…わたし」
「…ああ」
「かぞくまもるのに必死で…」
「…ああ」
「いっぱい、まもるの、しごと…なのにっ! ぜんぜんっ」
「…」
「役に、たてなかっ…」
嗚咽が響く。じわじわと背中から熱がしみてくる。
「さっきのは、本心か?」
「ひっ…えっ…」
「もう、歩けないのか?駄目なのか?」
「ううっ…」
「ひとりで、立てないのか?」
「っあ、ああああ」
叫び声にも似た、泣き声。
「そうか……」
首に回された腕に力がこもったのを感じた。見放されないかと脅えているのが分かる。
「俺と、おそろいだな」
「ふえっ…?」
「俺も、必死なんだ。いつも。俺の仲間…家族たちを守るのに」
「っ…!」
「だから、ミッション中は必要以上に皆を気にかけてしまう…あまり良い傾向ではないんだがな。ただ、お前たちには戦う意志があるから、アラガミを前にしても死なないと思える」
「たい、ちょおっ…」
「でも、お前は違う。お前の家族は、戦う力を持たないから…。おそらく、俺より不安なのだろうな」
「っ、こうた隊長がいなかったら、わたし、うごけなかった…!!」
「ああ」
「こうたたいちょ、だって、おんなじなのに…わた、し、はっ…」
「ああ…」
「たいちょっ、たいちょおっ…!! あああああっ」
しばらく歩き続ける。無線の向こうのヒバリは何も話さない。
「…お前がロングブレードに変えたばかりの頃、2人でオウガテイルを討伐に行っただろう」
「っはい…」
「その時に座り込んでいたお前を立たせたのを覚えているか?」
ミッションが始まって早々に転んだ私。初めて隊長が笑ったのを見て。尻餅をついていた私の腕を引っ張って。
「お前はあの時、自分で立っただろう」
"立てないのか?"
"た、立てますっ"
「!」
「お前に立つ意志があるなら。俺は何度だって腕を引こう」
「っ…」
「…★、立てないのか?」
立ち止まった隊長。
柔らかい風が吹き抜けた。
「……たて、る」
「…」
「立てますっ…!」
神機を握り直し、隊長から離れる。
「…強く、なりたいか?」
「っ…なりたいっ…」
「ああ。…俺もだ」
ぐし、と自分の袖で涙を拭う。
「帰ろう」
「はい…」
「皆が待っている」
「、はいっ…」
私の歩幅に合わせて歩く隊長と並びながら、ゆっくりと帰り道を辿っていった。
(あの、隊長…)
(どうした)
(お洋服に鼻水垂らしてたらごめんなさい…)
(…今回だけだからな)
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