※現在お礼は全4種になります


リンドウの場合



"ありがとうな、  "

涙が、出そうだった。
人前で泣くのは苦手だから必死にこらえたけれど、本当は部屋に戻ってからちょっとだけ泣いた。

リンドウにとって"新人"だった自分が、やっと一人前だと認めてもらえたようで、あの背中にほんの少しだけ近づけた気がした。

あの時の、"最初の命令"を必死に守って、第一部隊は誰一人欠けることもなく。リンドウが戻った今、彼に戻そうと思っていた。けれども、その申し出をリンドウは断り、お前たち兄妹に任せたい、と。


『お願いがあります…』

『ん?どうした、リーダー』


懐かしい、リンドウの声に少女は顔を綻ばせながら話を続ける。


『私を……遊撃隊に入隊させていただけませんか』


皆が目を見開いて、何か言う前に少女の兄が、いいんじゃないの、と笑ってみせた。


『リンドウさんがいいなら、僕はいいと思うよ。第一部隊の隊長なら…僕が引き継ぐから。どうですか、リンドウさん』

『そうだなあ…』


リンドウは、暫く空を仰いだ後、わしゃわしゃと少女の髪を撫でながら、じゃあ宜しく頼むわ、と頷いた。
勿論、周りの説得にはそれなりに時間が掛かった。初めは渋っていたフェンリル上層部をサカキが、ツバキをリンドウが説得し、最終的には皆が少女の意思を尊重したのだった。


「お前の名前なんだが」

「……はい?」


迎えのヘリを待つ空いた時間に、リンドウと並んで瓦礫に腰かけていた少女は声の方へ顔を向ける。


「なんと言うか、その…いい名前だと思う」

「…? …ありがとう、ございます」


脈略もない言葉に不思議に思いながらも素直にお礼を述べる。好きだった人に褒められれば、それがなんだってうれしい。


「あー…さっき、新人ふたりに子供の名前のこと聞かれたろ」

「…レンのことですか?素敵な名前だと思います」

「……実はな、女の子だったら、お前と同じ名前でもいいんじゃないかって話しててな。だから…なんだ…その」

「……」

「お前はどうだ?…やっぱり嫌か?」

「い、いえ…!その…ありがとうございます。光栄です」

「そうか。こっちこそ…ありがとう」

「…さーん!リンドウさーん!帰投準備できましたー!」

「おー、今行く」


明るい声に振り返れば、最後の荷物を積んでいるフェデリコと、大きく手を振るアネットが見えた。 小さく手を振り返して立ち上がる。


「  」


突然呼ばれた名前にハッとしてリンドウを見る。


「……お前には感謝してもしきれないなあ」

「リンドウ、さん…?」

「あー、なんつうか…改めて思っただけだ。よし、帰るか」


ぐしゃぐしゃと、頭を撫でるのも髄分となれたものだ。はじめは力加減が出来ていなくて少しいたかったのに。なんだってこの人はいつでも暖かくて、こんなにも泣きそうにさせるのだろう。


「……それは、私の台詞です」

「ん?」

「私を"つよく"してくれて、本当にありがとうございます…リンドウさん」


思わず面食らう。この子は、こんなにも綺麗に笑う子だったろうか。


「行きましょう」


歩き出した少女の背を見ながらがしがしと頭をかきあげる。


自分を想ってくれた彼女を振った自分が言えることではないが、恐らく家で待つ愛する妻がいなければ少女に惹かれていただろうと思う。
そんな彼女のためにこそ、願いたいことがある。

カミサマなんて信じていない。
それでも願うことが許されるのなら。

自責の念が強い彼女のせめても心の拠り所になるような、そんな存在ができるように。


「頑張れよー、コウタ」


そう願わずにはいられないくらいには、大切な後輩であるのだから。



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