サウナの中にいるみたいに蒸し暑い。カバンから冷たい感触を期待してペットボトルを取り出した。凍らせて持ってきたというのにとっくの昔に液体だけになってしまったようで。まあ、飲まないよりマシでしょ。上をちょっと向いて何処ぞの飲料水のCMを脳裏に浮かべながら喉を潤す。眺める空は真っ青で絵の具の水色を薄めてみましたみたいな色。美術の一学期の課題で使ったような色。そんな視界に割って入る真っ白なシャツと金髪。軽く手を振ると振り返す代わりにあっついなーって気だるそうに呟いて、階段をカンカン降りてくる謙也。

「ほんま暑すぎて溶けるんちゃう?」
「あはは、大げさー」
「いや、笑っとる場合ちゃうよ?」
「なぜ?」
「ここだけの話やけど…俺アイスの世界から来た男なんや」
「なるほど、どうりであまい男だと思ってたんだよ」
「せやろ?俺あまあまやねん!」
「さっむー!ありがとう謙也、涼しくなったよ」
「はいはいどういたしまして〜」

きゃっきゃっとバカみたいな話にバカみたいに笑い合う私たちはバカそのものだった。いや、謙也は私より頭いいけど。ていうか、今日部活ないの?って聞いたら、急にオフなった!と上擦った声が返って来て拍子抜けしてしまう。これって、デートできる展開?

「どうしたの?」
「よかったら、一緒にアイス食べに行かへん?」
「いまから?」
「いまから!だめか…?」
「ううん、行きたい!」

こんなあり得ないほどに暑くて夏休みなのに登校する意味かっこわらい、とかツイートしたくなるようなそんなめんどい登校日だったけど、謙也とデートできるなんて学校ありがとうって叫びたい位だ。別に学校なくてもデートはできるけど、そういうことじゃなくてこのサプライズ感がいいのだ。

「ん!」
「えっ?」
「手!つなぐとこやろ!ここは?」

ムードもへったくれもないけれど私たちらしいってちょっと笑ってしまった。


ショッピングモールのフードコートにあるアイス屋さんで謙也は抹茶、私はストロベリーをたのんで、ちょっとちょうだいとかはいあーんとかやってる私たちはハタから見たらただのバカップルってやつ。さっきもこんなこと思ったな。はいデジャヴ。もはや、恥ずかしさとかも湧いてこない。けれどやっぱり視線は気になるもので、ふ、と見渡せば小学生くらいの女の子たちが私たちを見てにやにやひそひそしていた。

「けーんーやー、めっちゃ見られてる」
「そういうお年頃なんやきっと」
「ませてるねー」

うんうん頷きながら大人ぶる。私だってまだまだひよっこのくせに。スカートから伸びる足は色気がないし、くびれだってあるんだかないんだかって感じだし、胸だってまだまだ発展途上だし。謙也はこういう私でいいのかな。少しの不安が襲う。でもめんどい女だって思われたくないから気づかれないように振る舞う。できる限りの演技でそういう汚い部分を覆ってしまう。最後のひとさじを口に運んでちらりと謙也を盗み見る。アイスは全部謙也のお腹に消えていて、にっこりと優しげでありながら、愛おしそうに私をみつめる目があった。私の演技力が大そう素晴らしいのか、謙也がにぶいからなのか、真相は不明だけれどそれでも、胸の内側がじんわりと温まっていき、冷房で冷却された体に熱を感じた。この笑顔を見たら、不安なんて遠くの世界に消えていくんだなあ。謙也は、ぽんと頭を撫でて、にっと笑う。

「ほな、行こか」
「う…ん」

椅子をずらし、視界に捉えた謙也の顔が息を付く間も無く距離をなくしたかと思えば、冷え切ったそれに更なる熱を運ぶ。

「…あまいね」
「ほら、俺…アイスの世界から来た男やから」

ぎゅっと手を握られる。あまったるい、すべての空間が。いろんなことを二人で共有してきっと少しずつ私たちは大人になっていくんだなあ。そういう未来に疑いなんてこれっぽちもない。

夢見るアイスクリーム

140815
title by にやり
picture by ラスト1ページ
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