「どないしたん?」


ハデに転んだわたしは小学6年生にもなってべそをかきながら、すりむいたひざを抱えてうずくまっていると上から男の子の声がふってきた。公園に植えられたサクラの木は花を散らせて、ヒラヒラまっていた。サクラからもれる光がまぶしくて男の子の顔がよく見えない。


「血ぃでとるやん。立てる?」
「うん…」


男の子はわたしを立たせてくれると水道まで手を引いてじゃぐちをひねった。にょろにょろとねじれる水がわたしのひざを洗い流していく。


「これでバイキンはさいならやな」
「あ、ありがとう!」
「くらのすけー!」


男の子は声のした方をふり返って呼びかけに答える。友達が男の子、くらのすけくんを迎えに来たみたいだ。わたしはもう一度ありがとうを言って、そしたらくらのすけくんはかっこよく笑って走っていく。ミルクティブラウンの髪の毛がサラサラとゆれていた。やさしいなあ。わたしはくらのすけくんに一目ぼれをしてしまった。








入学してから1ヶ月も立つとクラスの中で誰々がかっこいいだの気になるだのという話題が出てくるものだ。中学のときもそうだったけど、高校生になった私がお弁当をつついている今現在、一緒に机をくっつけていた仲良しの友達がふとそんな話題を出している。


「なーなー、そういえばAの白石くんて知っとる?」
「男テニの?」
「めっちゃイケメンやんな!」


白石くんの噂は聞いたことがある。なんでもめっちゃ強い四天宝寺中テニス部出身でしかも部長だったらしい。頭もよくて性格もよくてさらにはめっちゃイケメンらしい。それだけ揃ったパーフェクト男子、白石くんがモテないわけはちっともなくて当たり前のようにトップクラスのモテ男だった。読モやってる先輩とか学年のアイドルが告白したけど玉砕したらしい。その硬派さが更なる人気をよんでるとか。けれど友達がいくら白石くん白石くん騒いでも私にはあんまり興味がわかなかった。唐揚げを口に運びながら目に浮かぶのは、くらのすけくんだった。あれから4年。彼は元気だろうか。どうか彼が元気で幸せでありますように。



今日の午後は体育だった。友達が体育委員で用具の準備がすごく多くて大変そうだったので暇な私は早めに着替えて手伝うことにしたのだ。選択で使うテニスボールのカゴを両手で抱えてテニスコートに向かう。予想以上に重い。体育館裏の角を曲がった瞬間、予想外の段差が私のバランスを奪った。あっと思ったときには既に遅くボールをぶちまけながら私は転んでしまった。痛さに目を眩ませながらなんとか体を起こすと、私より先にボールを拾うテニスラケットを背負った人影が見えたので私も急いでボールを拾い始める。最後の一個をカゴに入れたところで私がありがとうと言いながら頭を下げる。


「またハデに転んだなあ、自分」


また…?疑問符を浮かべながら頭をあげると、ぱちりと開かれた形のいい目とぶつかる。サクラがヒラヒラ舞う中にとけ込むような綺麗なミルクティブラウンの髪。4年前の記憶が一気につい先ほどのことのように網膜に蘇る。もしかして…?


「くらのすけくん…?」


そう言い終わらないうちに、彼は4年前よりもずっとずっと高くなった背を折り曲げて私を包み込んだ。声も出ないほど私はびっくりしてしまってあたふたするしかない。


「やっと会えた」
「…」
「4年は長かったで」


私はまるでうんうん頷くことしか覚えていないロボットになってしまったようにそれをするだけだった。脳に焼き付く記憶が今ここで新たに呼吸を始めた。ジャージ越しに感じる、くらのすけくんの体温は心地よく私の中を浸透していく。浸っていると、そっと腕をほどかれ、くらのすけくんが私をみつめる。


「どないしよう」
「え?」
「めっちゃキスしたいんやけど」
この唇はきみに触れたくて触れたくて仕方ないんだ

110430 彼女の視た夢の結末さまへ提出
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