寒い朝。ベッドから出ている顔に、トゲトゲした寒さが突き刺さる。いやいやながらに仕度をして学校に向かった。電車のドアに寄りかかって流れる景色を背に携帯を開くと、ディスプレイに並ぶ11月11日。ああ今日はポッキーとプリッツの日だ。コンビニで買っていこう。



いらっしゃいませーに出迎えられてコンビニに入る。朝ご飯とか、昼ご飯とかを買う人でごった返す店内を練り歩いて、まっすぐお菓子コーナーに行く。イチゴにしようか、ムースにしようか、悩む視界を急に覆われて暗闇が現れた。え、誰?


「だーれじゃ?」
「うーん、仁王?」
「正解。よくわかったのう」
「声、変えてないじゃん」


ニヤリと笑った仁王がヒラヒラと手を振りながら私の後ろに突っ立ってた。


「だいたい、仁王イリュージョンとか得意なんだから声変えたりすればバレないじゃん」
「おまえさんにはバレたいんじゃ」


仁王ってやっぱり意味わかんないなあ。結局、財布と相談してイチゴを手に取り会計をすましにレジに並んでいる間、仁王は化粧品コーナーをうろうろしていた。なんでかは聞かないことにする。仁王と肩を並べて他愛もない話をしながら歩いてると、ヒソヒソ、ちらちらと私たちを噂するギャラリー。いや、付き合ってないよ。って思いも込めて、ちょっとだけ離れて歩くと怪訝な顔の仁王と赤也。ん?赤也?


「おはようございまーす!先輩ら付き合ってるんすか?」
「そうじゃ、だから赤也空気読みんしゃい」
「いやいや付き合ってないから!!」
「えー俺、お似合いだと思ってたのに」
「赤也、そのうち現実になるぜよ」
「真顔で嘘つかないで、傷つくからてか赤也ポッキー食べる?」
「いります!あざす!!」


ニコニコしながらポッキーほおばる赤也は本当に可愛い。まじで弟にしたい。ニヤニヤしながら見ていたら、仁王に渋い顔された。



部室に用事があるって言う仁王と一個上の階の赤也と別れて三年の教室がある廊下を歩いていると、A組の前で何やら怖い顔した真田がどす黒いオーラを出していたので私はきびすを返してトイレへ行こうとした。したんだけど。


「名字ー!待たんか!」


まるで、応援団が使う太鼓みたいに大きな怒号が私に飛んできた。恐る恐る振り返ると、腕を組んだ真田が、つかつかと歩み寄って来るではないか。怖い怖い怖い!水道で手を洗っていた柳生がちょうど良いところにいたので、後ろに隠れる。


「柳生!名字を出さんか!!」
「なるほど、真田くんの言いたいことはわかりました」
「柳生だめええ!真田ダメぜったい!!」
「名字!!」
「そのスカートはちょっと短すぎですよ」


プンスカプンプンと怒る真田の横で発せられた柳生の諭すような声がひどくミスマッチであった。あ、そういうことか。いつもより足スースーするなって思ったら寝ぼけていつもより多めにスカートを織っていたようである。いそいそとスカートを下ろして、柳生の裏から顔を出すと真田がしょうがないなあって顔をして眉を下げた。


「真田ってお父さんみたい、柳生はお母さんだね」
「それは楽しそうな家庭ですね」
「そんなわけあるか!!」



今日はみんなでカフェテリアで食べようってことになった。お弁当プラス、ポテトでも食べようと食券の販売機にお金を投入して、ポテトのボタンを押そうとしたときだった。


「ポテト食べるのかい?」
「うわ…!幸村!!」


部長、幸村が私の後ろでニコニコと佇んでいた。


「君さあ、お弁当はないの?」
「あるよ」
「じゃあなんでポテト食べるの?」
「え」
「太っちゃうよ?」


怒ってる人より笑ってる人のが怖いっていうのは誰の言葉だったっけ?私は思わず押そうとしてた手を引っ込めて言う。


「食べません…」
「よし偉いね、それでこそうちの自慢のマネージャーだ」


ポンポンと頭に手を置いてにっこりほほえむ幸村は優しさで溢れていてやっぱり神の子みたいだと思った。



五限の国語係になっていた私はみんなと早めにバイバイして廊下を歩いていた。と、そこで前方からサラサラヘアーが一人。


「柳ー!」
「『今日なんの日か知ってる?』とお前は言う」
「さすが!ポッキーとプリッツの日だよ!食べる?」
「ああ、いただこう」


はい、と袋の口を柳に向けた。けれど柳はいつまでたってもとろうとしない。どうしたんだろう?


「食べさせてはくれないのか」
「え!」
「だから食べさせては、」
「き、聞こえてるよ!」


ふ、と息をもらして笑う柳は女の私から見ても洗練された美しさだと思う。こうなったらやけだな。ポッキーを一本つまんで柳に向けるとパクリと柳は食べる。


「やはりお前に食べさせてもらう方がうまいな」


顔が熱い。国語係を口実に私は柳から逃げ出す。



秋っていったら何を思い浮かべる?読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋、etc.…五限の休み時間に、ポッキーを一気に三本まとめて口に突っ込む丸井ブン太にとってその質問は愚問かもしれない。


「食欲の秋に決まってんだろい」
「ブン太は季節関係ないでしょ、秋だろうと冬だろうと」
「そんなことねーし」


ぽっきんぽっきん。ポッキーのCMの効果音も顔負けなくらい良い音を立てている。くそう、私もご飯後なのに食べたくなっちゃうじゃん。さっき幸村にポテト止められたのにそれはまずいなあ。そんなことを考えながらブン太を見ているとジャッカルがやってきた。両手にはいろんな味のプリッツとポッキーが、こんもりと山を作っている。それをドッサリと机の上に置いてジャッカルは言う。


「ブン太、買ってきたぜ」
「サンキュ!」
「ジャッカルまたブン太にパシられたの?」
「ん?日本では11月11日ってジャンケンで負けた方がプリッツとポッキーおごる日じゃねーのか?」
「それだまされてるから!」


哀れなジャッカルに私は残りのポッキーをあげた。そしたらジャッカルが「お前いいやつだな」なんて言うから「ジャッカルには負けるよ」って返したら爽やかな笑顔で「そんなに俺いいやつじゃねーよ?」って困ったように笑うから危うく惚れそうになった。


ワン×6/111112
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -