夏が足早に過ぎ去って、秋がゆっくりと顔を見せる。ぽつぽつと急に降り出した雨は、あっという間に拡大してザーザー降りになる。それなのに傘もささないでひたひたと歩く私を皆が怪訝そうにみつめる。かと言って誰も傘を差し伸べてくれようとはしない。別に私もそれを望んではいない。けれど寂しい。この矛盾は言葉で説明できる類のものではない気がした。行き交う人、車、人、車。すべてが急いていた。とり残される、そう思った。視界が歪み、足が揺らぐ。頭がまっ白。


「だいじょうぶ?」


差し伸べられた傘、かけられた声、支えられた腕。目だけを動かせば男がいた。サブウェイマスターのクダリ。知らない人はきっとライモンシティにはいない。クダリは崩れかけた私の身体を起こしたけれどまた私は崩れそうになる。力が入らない。クダリは、心配そうに顔をのぞき込む。ぽたりと私の髪から雫が落ちた。するとその様子にクダリは目を見開く。ひどく寒い。冷たい、夜のネオンはちっともあったかくなんかない。


「どうして、ナマエお家は?」
「今帰るよ」


ぶんぶんと脳みそを振り回されている心地がしている。体調も気分も最高に悪い。助けて欲しいけど助けて欲しくなかった。クダリみたいに地位も人望もある人が私なんかに構っちゃいけない気もした。彼は遠いところにいる人だ。私の手の届かないところ。こんなに好きなのになあ。


「うそ」
「え?」
「もう終電行っちゃってる、だからぼく仕事終わってここにいる」
「タクシーで帰るよ」
「タクシーならここに」


ひょいと膝裏に手が回される。冷えたタイツ越しに感じるクダリの手の感触。彼をみあげる。ぽたり、クダリの頬から雫が落ちて私は息をのむ。


「ぼくの家行きね」
「何言ってんの?」
「ぼくはいつだって本気」
「下ろして、クダリが濡れちゃう」
「キミが雨にぬれるなら、ぼくも一緒にぬれる」
「クダリ…」
「キミがかなしいと、ぼくもかなしい」
「うん…」
「キミが寂しいなら、ぼくがそばにいる。だからそんな顔しないで」


おでこが優しく、くっつけられる。コツン。クダリの鼻先が、私の頬をふわりと撫でた。そしてあったかいキスが落とされる。息を吸う暇をも惜しむように何度も何度も。さっきまで寂しくて寂しくて仕方なかったのに、クダリはそんな私をいとも簡単にあたためる。ニヤリといつもの笑みをこぼして言ったクダリの「一緒に帰ろう」は私の耳から脳から胃からなにまで全部に染み渡っていく。クダリのこと大好きだなあ。一向に止む気配のない雨に包まれた冷たい街にたたずむ私たちはきっととてもあったかい。


冷たい街
110922/title 弾丸
サブマス祭り2!
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