新調したばかりのレモンイエローのカーテンがふわりと揺れて私の頬をくすぐる、朝。目をうっすら開けて寝返りを打つと、となりにノボリさんが気持ちよさそうに寝息を立てていた。


「ノボリさん?」


呼びかけに返事はない。すやすやと規則正しく、くり返される呼吸はノボリさんが生きている証だ。普段、ノボリさんは隙を全く見せない。時間通りに出勤し、業務をそつなくこなす。ノボリさんがミスを侵したという話も全くもって聞いたことがない。良くも悪くも彼は完璧すぎる人間であった。だからこそ、今、彼が私のとなりで無防備な寝姿をさらしているということが、とても嬉しかった。ノボリさんの閉じられたまぶたに影を縫い付ける睫毛の長さとか、きっと私しか知らないの。そう考えたら知らず知らずのうちに笑みが零れる。大好きな人のとなりで朝を迎えられて私は幸せ者だなあ。幸せな気持ちのまま、ベッドから降りようと足を下ろした時だった。


「ノボリさん…?」
「行かないでくださいまし」


いつも、お仕事中に手袋がはめられている長い指が素肌のまま私の腕を掴む。そうっと後ろを振り返ればいつの間にか目を覚ましたノボリさんがジーッとこちらに視線を投げていた。視線が絡まり、交錯する。その行為でなんとなく、なんとなくではあるが彼の気持ちがわかってしまうのはきっと一緒にいた長い時間が生み出す産物なんだろう。だけど私は知らないふりをする。直接彼の口から聞きたいなんて、私のただの我が儘なのだ。だから、今すぐその広い胸に滑り込みたい気持ちを押さえつけるのをノボリさんは淡々とみつめていた。


「ナマエ」
「ん?」
「わたくしはあなた様を愛しすぎているのです」


すうっと、ノボリさんの指が私の腕を滑り手を持ち上げられる。息をつく間もなく、そのまま、静かに薄い唇が手の甲に落とされる。伏せられた目、通った高い鼻、白い肌。ノボリさんを構成する全てが美しく、貴く見えるのは絶対に思いこみじゃない。優しく腕を引かれ、私はノボリさんの腕の中へと招かれた。再度絡まり、交錯する視線。


「このまま、ナマエを離したくありません」
「うん…」
「こうしていると、まるで…世界にあなた様とわたくししか存在しないような気さえするのです。笑われてしまうでしょうか?」


ノボリさんの薄いグレーの瞳が甘さを含みながら私の心臓をぎゅっと掴む。ノボリさんのくれる愛は私の胸をこんな風にぐちゃぐちゃにかき混ぜていく。まるでかき混ぜれば膨らんでいくメレンゲのようにその度に私の愛も大きくなる。愛しすぎている。ノボリさんの滑らかな頬に両手を当てて思う。


「私も同じ気持ちだよ」


そうして二人の世界に浸るのだ。


あなたとわたし
110915/title ごめんねママ
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