「信じられる?」


まるでバレリーナみたいに、振り返ってナマエは言う。前を歩く彼女のひらりと舞うスカートに、もうちょい風さん頑張ってくれへんやろか…なんて考えとった俺は、少し戸惑う。それを見逃してくれないナマエはさすがやと思う。


「廉造」
「はい」
「どうせ、綺麗なお姉さんをやらしい目で見ていたんだろうけどね!」
「ちゃうて、ナマエのこと見とってん」
「え?」


なんかの漫画の怪物がヒーローにやるみたいに、俺の目見てナマエは石みたいに固まってしもた。心なしか、ほっぺが色づいとる。ほんま、ナマエかーいらしくてしゃーないわ。


「もしもーし?」
「そっそれより、今日の最高気温が35度って信じられる?」
「…」


覗き込んだ俺から目をそらしてナマエは言う。照れ隠ししとるつもりやろが俺にはバレバレやで。思わずにやついた俺に呆れたように彼女は空を仰いだ。じりじりと迫る真夏の35度の太陽が肌に熱を突き刺す。ちょっと痛いくらいのそれに夏やなあと気づかされる。


「ちょうど私の平熱くらい」
「そうなんや、ちょっと低めやね」
「低血圧だから」
「冷やしてくれはります?」


冗談のつもりやった。いやほんまは冗談ちゃうけど、どうせナマエは「ばっかじゃないの」とでも言うて俺の頭叩くだけやろ思とった。だから、ナマエが「ん」とか言うて右手を俺のほっぺに乗せて来た時、俺はフリーズした次第なのである。「気持ちいい?」とか聞いてくるけど気持ちいいに決まっとるやろ。でも人間ちゅーのは煩悩まみれな生き物やさかい、こんなんじゃすぐに物足りんくなるんやで。


「足りへん」
「廉造…?」
「ナマエが好きすぎてどうにかなってしまいそうや」


思わず抱きしめたナマエの細い腕が遠慮がちに俺の背中に回された。真夏の空気なんかより俺らの体温のが熱いのはきっと愛の仕業に違いないやろ。


微熱の疾走
110824/タイトル にやり
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