※背徳的、ゆるい不健全、拍手『疑惑』のヒロインサイド

「ナマエ!」


振り返るやいなやクダリは私に抱き付く。私は、まきつくって技ってこんな感じなのかなとふと思う。ぎゅーっと巻き付くクダリはよしよしと私の頭を撫でながらチュッと可愛らしい音を私のおでこに奏でる。


「クダリ、皆さんが見ていますよ」
「かまわない、だってナマエはぼくのだってみんなわかるし!」
「もう、クダリ苦しいって」


クダリと私は恋人同士だ。こんな風にクダリは周りの目を気にしないで愛情表現してくるから私とクダリの仲を知らない人がギアステーションにいるのだろうか?という感じなのだ。今だって駅員さんが「ああボスまたやってるよ」なんてささやきあってるし。はあと私は息を吐いて、仕方ないなあと思いながらも自然と綻ぶ顔をクダリの肩にうずめた。突き刺さる視線。


「クダリ、そろそろ行きますよ」
「ええ!まだナマエといたい!」
「いけません。トウヤさまがダブルトレインにご乗車されましたから」
「でも」


だだをこねるクダリはノボリさんにぐいぐい引きずられていく。その様子がおかしくてクスクスと笑みがこぼれる。その時だった。誰にもわからないように、けれど確実に開かれたノボリさんの口が「こんや」と私に告げていた。去りゆく二人の背中を最後まで私だけが見ていた。


▲▽▲▽▲▽


夜になって、約束通りにノボリさんのマンションを訪ねた。インターホンを鳴らすか鳴らさないかのうちにドアが開いて私は荒々しく抱き寄せられる。


「ノボリさん…?」
「ナマエ」
「ちょっと…苦しい」


昼間のクダリと同じくらいキツく抱きしめられて、少し痛い。ノボリさんは私の訴えに、腕を緩めた。安堵したのも束の間、今度は深い深いキスが降ってくる。酸素の供給源を奪われて、頭がクラクラし始める。視界が揺れて思わずフラついた。ノボリさんは想定内だとでも言うように、しっかり私を抱き止める。


「申し訳ありません、ナマエ」
「もう…本当にそう思ってるの?」
「はい、お詫びに」


ぐいと膝に手を回されて視界が反転する。私は漫画みたいにお姫様抱っこされていた。細い体のどこにいったいそんな力あるの?という言葉は呑み込む。そのまま皺ひとつないベッドに優しく寝かされる。今度は優しいキスが落とされる。無意識に閉じた目を開くと端正な顔立ちが目に入りドキリと胸がなる。クダリと全く同じ顔。ノボリさんは次第にキスを下降させていく。今日はヤケに積極的だ。おかしい。そこで私はポンと閃く。


「ノボリさん、もしかして妬いた?」
「…」


ピタリと動きが止まった。どうやら、私が昼に彼から感じた視線は嫉妬の視線で間違いないようだ。普段あんなにも冷静であるノボリさんの感情的な姿を見られるなんてなんだか得した気分だ。私が思わず口端をゆるめると、鎖骨の下に甘い、刺激が走った。いつもクダリに気づかれてはいけないからと痕を残さないノボリさんが初めてとった行動だった。


「わたくしは…」
「ノボリさん…?」
「こんなにもナマエを愛しているのに…」
「…」

一瞬、私には彼が泣いているかのように見えた。それほどまでに切なそうに洩れた声に私は涙が溢れ出した。その涙を止める魔法のように優しい優しいキスをノボリさんは溢れさせる。結局、クダリもノボリさんも大好きな私はどちらかなんて選べないから罪悪感でいっぱいになる。だけど今だけはノボリさんがくれる甘い愛を甘受して、私もあまあい声で返すのだ。


「だいすきだよ」


歪んだリップノイズ
110727/タイトル ごめんねママ
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