「次の日曜日休みになったよ」 毎晩欠かさない電話でデントがそう口にした。私は嬉しくなって、携帯をぎゅっと握りしめる。デントはサンヨウジムのジムリーダーであると同時にウェイターの仕事もしていてこっちが心配になるくらい忙しい人だったからお休みなんて本当に久しぶりなのだ。 「そうだ、久しぶりにぼくの家に来ない?」 「ほんと?いいのかな?」 「もちろん。ぼくがキミのためだけに愛を込めておもてなしさせて頂きます」 デントのかしこまった声に私たちは受話器越しにクスクスと笑いあう。普段はゆっくり会えなくたって、いつもデントは私を想ってくれているし私はデントを想ってる。うぬぼれじゃなくて紛れもない事実なのだ。 ・ ・ ・ 日曜日、約束の時間になって私はデントの家のインターホンを押す。すぐにはあいという少し慌て気味の声が返ってきて、もう少し遅くくれば良かったかなと後悔した。名前を告げれば、デントは今行くよと言って間もなく玄関のドが開く。 「いらっしゃい」 「こんにちは、デント…」 言い終わるか終わらないかのうちにデントの長い指が私の腕をグイと引いて私はデントの胸に引き寄せられる。後ろでバタンとドアの閉まる音を聞きながら抱きついたまますっかり動かなくなってしまったデントに問いかける。 「ちょっとデント…?」 「今日もすごく可愛い」 「もう…」 「キミに会いたくて会いたくてたまらなかった」 私はまるで骨でも抜かれたみたいに一気に体の力が抜けていく。デントは時々こんな風に生クリームがたっぷり入ったロールケーキのように甘い甘い言葉を私にくれるのだ。私はその度々にその甘さを堪能する。 「迎え行けなくてごめん」 「ううん、その間にデントに会いたい気持ちがさらに増えたから」 「それは嬉しいな。さあこっちだよ」 家の中でも手を繋ぐ私たちは端から見たらバカップルってやつなのだろうけど私はデントが大好きなんだから仕方ないって頭の中で自己解決させる。キレイなテーブルクロスの上にはデントが用意してくれたたくさんの料理がおいしそうに湯気を立てていた。ゴクリと喉が鳴る。 「キミを想ってキミのためだけに作りました」 「すごく嬉しいなありがとうデント」 ・ ・ ・ おいしい料理でお腹いっぱいになって私はますます幸せな気持ちになる。片付けを手伝おうとしたけれど「今日はぼくがお招きしているんだから」というデントに甘えることにした。白いソファーに座り、ふかふかさが私を迎え入れる。目線をずらすとキレイな緑色の瓶が視界に飛び込んできて引き寄せられるように私は眺めていた。室内の蛍光灯が緑色を鮮やかに照らし出し、中の赤紫色を艶やかに揺らす。 「キレイな色…」 「知ってるかい?ぶどう酒って昔は薬として使われてたらしいよ」 「お酒が?」 「不思議だよね。酔ってしまうけれど悪かった所が良くなってしまうんだ」 「すごいなあ」 「まるでキミみたいだ」 私の横に腰を下ろしたデントのイエローグリーンの瞳が優しく私を映し出す。私は少し恥ずかしくなってほっぺたが熱くなる。デントは笑みを零して「キミがいないとぼくダメなんだ」なんて言うからそれはこっちのセリフだよって言うかわりに私はその広いデントの胸に飛び込んだのだった。 ぶどう酒瓶を知ってるかい? 110605 Liebeさまへ提出 |