※宍戸→女子A→芥川→女子B→宍戸でこのヒロインは女子A

朝起きたら短針が10を指していた。頭の中で計算したが今からどう頑張っても3限にも間に合わないだろう。遅刻確定、だったらもういいやとのろのろと支度をする。お母さんが「あんたはもう」とため息を吐いた。だったら起こしてほしかった、なんて言ったら怒られるだろうから言わない。支度を終えてローファーを履いて外へでた。

私と同じように遅刻した小学生の側を通り過ぎ近所のアイドルのチワワを触りたい衝動を抑えれば駅に着く。乗り慣れた青い電車に乗り込み20分ほど揺られれば私の学校氷帝学園の最寄り駅だ。定期をピッとかざした手に触れる冷たい空気に思わず身震いをした。マフラーをきつく巻き直して、ゆっくりゆっくり歩き出す。遅刻だからいいやって諦めからワザと遠回りをして、コンビニに寄った。いらっしゃいませえー暖かい空気と威勢の良い店員の声に迎えられ気持ちが緩む。雑誌コーナーに山積みになっているジャンプを手に取りそうになったのを我慢。だって昼休みに男子に借りればいいし。何の気なしにお菓子コーナーに寄ると、可愛らしい女の店員の字でオススメと書かれた冬季限定のムースポッキーが目についた。ふっと頭をよぎったのは私の片想い相手のジローちゃんの顔(それもテニスしてるときの)だった。いつも眠そうなジローちゃんだけどテニスしてるときの彼はスッゴくキラキラしてる。それを知ったのは最近で、そのときの衝撃は回りの音が消えて世界に私とジローちゃんしかいないような、そんな不思議な感覚がしたのを覚えている。
ムースポッキーを持ったまま立ちすくんでいた私はなんだか自分が、こっぱずかしくなって頭をブンブンと振るけれどジローちゃんの顔が頭から一向に離れない。そのままお昼のパンとサラダとそれからムースポッキーを持ってレジに向かう。若いお姉さんがニコニコと接客をしてくれた。もしかしたらさっきのオススメの字のお姉さんかもしれない。


学校に着いて自販機でホットココアを買う。かじかんだ手にほわりと広がった暖かさに階段を上る足が速まる。はやく、ジローちゃんに会いたいなあ。そんな思いばっかりだ。2階と3階の廊下の間でちょうどチャイムが鳴って、同時にサッカーボールを持った男子が私の横を颯爽と駆け抜けた。多分昼休みなんだ、ガラリと戸を開けて入れば皆弁当を広げていて、気づいた数人の友達が私に駆け寄る。仲良く談笑をして、友達はまた弁当の和に戻る。私はカバンから5限と6限の教科書を取り出して机にしまう。


隣の席の宍戸がエビフライを頬張りながら「はよっ」と挨拶をしたから私も挨拶を返す。そしてコンビニの袋からムースポッキーを持ってさあいざジローちゃんの所に行こうと踏み出した足はそれ以上進まなかった。


ジローちゃんの席には可愛い女の子がいた。学年で1、2を争う可愛さの女の子。ふわふわしていて私とは正反対の女の子。右手にはムースポッキーを持っていた。私と同じ、私がジローちゃんのために買ったムースポッキーを彼女もジローちゃんのために買っていた。


そのままガタンと椅子に座る。聞きたくなくても私の耳は知らず知らずの内にジローちゃんの声と彼女の声を拾っていた。私はいたたまれなくなって心配する友達に「保健室行くわあ」と言って教室を飛び出して屋上に向かった。


屋上には誰も居なくて、フェンスぎりぎりの所まで行って冷たい床に座り込んだ。寒い、北風が容赦なく吹き付けて私の熱を奪う。膝を抱え込むと冷え込む体とは逆にだんだんと目頭に熱が出てきた。どうせ誰も見ていないだろうから泣いてしまえと思って眉を下げたそのとき、ほっぺたに温い感触を感じた。


「ん」
「宍戸…」


気づいたら私がさっき買ったばかりのココアの缶とコンビニの袋を持った宍戸が私の隣に腰をおろしていた。


「昼飯」
「?」
「食わねえのかよ」
「…食べたくないんだよ」


そっぽを向くフリをして目をこする。泣いてるところなんか見られたくない、まして宍戸には見られたくないのだ。なんでなのかは、わからないけど。


「だからお前はこんなチビなんだよ」
「これでも伸びてるんですけど!」


ポンと私の頭を叩いた宍戸が笑う。私は俯き加減だった頭を上げて、宍戸に促されてパンとサラダを食べた。味なんかしなかった。


「それ食わねえのか」
「ポッキー?」
「うん」
「もういらなくなった」


ほんの一時間前に、ドキドキしながら買ったポッキーが今では恨めしい。買わなきゃ良かった。そう思って袋にしまおうとしたところを宍戸にひょいと取られた。


「なに宍戸?」
「いらねえんならオレ貰うわ」
「ちょっ…」


ぽっきんと音を立てながら宍戸がポッキーを食べる。そんな宍戸を横目に校舎裏の方へと目線をずらすとジローちゃんとあの子が2人っきりでいた。ジローちゃんはあの子を抱き締めていた。ずきんずきんと胸が鳴った。ジローちゃんジローちゃん。好きだったよ。そして私は宍戸のポッキーを食べる音を聞きながら少し泣いた。



滲まない視線

091117/タイトル 棘
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