※芥川→女子B→宍戸→女子A→芥川でこのヒロインは女子B

コンビニで見つけたムースポッキーをあげる人は決まっている。ジロちゃん、私の大好きな友達。気を使わなくて話せるから私はジロちゃんが大好き。4限終了の合図とともにC組のドアを開ける、ジロちゃんは案の定寝ていた。肩が上下して、聞き取れるか取れないかギリギリの寝息が聞こえた。


「ジロちゃんジロちゃん」
「んー」


瞼が半開きのままむくりと顔を上げたジロちゃんは私の顔を認識した途端にパアーッと顔を輝かせた。


「あ!おはよ」
「ジロちゃん何時だと思ってるのーもうお昼だよ」
「やっぱC」
「ったく、オレが起こしても起きなかったのによ、」


ふいに頭上で響いた声に心臓が跳ね上がる。


「し、宍戸くん」
「コイツお前じゃなきゃ起きねえんだよな」
「あはは、そ、そうなんだ」
「ん、ジロー、プリント」
「ありがと〜」
「起こしてくれてありがとうよ」


宍戸くんは笑ってジロちゃんの席を跡にした。その後ろ姿を見つめる私は宍戸くんの前では上手く話すことが出来ない。いかないでって言いたかったのに言えない私は本当にだめだなあ…溜め息を吐いて、ジロちゃんに向き直ってポッキーを渡す。


「うわあ〜うまそう!」
「新作なんだよ食べて食べて!」


キラキラと顔を輝かせるジロちゃんは本当に可愛い。男の子に可愛いなんて失礼かもしれないけど、私はいつもそう思う。幸せな気持ちでジロちゃんを見ているとガラリと、昼休みでとても騒がしい教室に溶けこんで消えそうな音と共に女の子が入ってきた。あ、

どくん、と心臓が跳ね上がる。でもさっきの宍戸くんの時とは全然違う。不安で怖くて痛い心臓の跳ね上がり。どうしよう、どうしよう。あの子はマフラーを外しながら宍戸くんと挨拶を交わして、宍戸くんの隣に腰を下ろしまた立ち上がってそれからバチリ、私と目が合った。


それは一瞬で永遠のように感じられた。あの子の瞳がぐらりと歪んだ、ような気がして、気づいた時には教室を飛び出したあの子を宍戸くんが走って追いかける、まるでサイレント映画のワンシーンのような光景を私の頭がそれを理解するのを必死に拒んでいた。ジロちゃんが私をじっとみつめるのも気づかなかった。だからなんで私がジロちゃんに手を引かれて廊下を歩いてるのかよくわからない。


「ジロちゃん…?」


校舎裏でようやく立ち止まって振り返ったジロちゃんは今にも泣き出しそうな目をして、それで私を抱き締めた。


「ジロちゃん…?」
「ごめんね…ちょっとだけ」


じんじんと掴まれたところが少し痛い。これはジロちゃんの痛み?ジロちゃんなんで泣きそうなの?って言ってもジロちゃんはごめんねしか言わない。


ジロちゃんの肩越しに見えた屋上の影に私の心臓も悲鳴をあげている。宍戸くん、どうしてあの子なの、私の中でぐるぐるとループする。目の前の辛そうなジロちゃんを心配するより、自分のことでいっぱいな私は、あの子をずるいと思う私はとってもずるい。


まだ朝はこれから

091206/タイトル 花洩

滲まない視線のアナザーストーリー
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