どきどきどきどき。丸井くんのことを考える度に私の心拍数が上がるようになったのはいつからだろう?たった今からのような気もするし、はたまたずっと前からのような気もする。不思議な感じだ。


丸井くんは負け知らずの立海大付属中学テニス部レギュラー、ジャッカルくんとダブルスを組んでいて、とっても強い。赤い髪が印象的で笑顔がスッゴく素敵。あといつもガム噛んでる。お菓子だいすき。それから…


「おーい」
「ぎゃっ」


突如響いた声にビクついた心臓を落ち着かせるために息を深く吐いて、ゆっくりと振り返る。そしたら今部活中のはずの丸井くんが笑みを貼り付けて立っていた。


「ま、丸井くん、部活は…?」
「今日はミーティングだけ」


なるほど、確かにこの3年B組の教室から見えるテニスコートには誰もいない。いつもなら、沢山の部員がランニングしたり、試合したりしている様子がはっきり見える。とは言っても私の視線はただ1人丸井くんに釘付けなんだけれど。それよりさ、と丸井くんが続けて私は顔を上げる。
「お前なにしてたの?」
「えーと…あはは」


まさか、丸井くんのこと考えてましたなんて、ちょっと言えないから飲み込んだ言葉の代わりに笑いで誤魔化す。いつも私は言いたいことを恥ずかしさから飲み込んでしまう。対象的に丸井くんは思ったことをさらりと言えてしまう。それがとても羨ましくて、そしてそんな彼が大好きだった。夕暮れの綺麗な茜色が窓から差し込んで私と丸井くんを染め上げる。燃える赤、丸井くんの髪と同じ赤。


「えーとあのさ」
「う、うん?」


少し視線をずらして口ごもる彼はそれからパッと顔を上げて私を見つめた。どきどきどきどき。


「一緒に帰ろうぜ?」
「う…うん!」


丸井くんは嬉しそうに目を一瞬細め、それからふうと息を吐いてガムをまあるく膨らませた。背の割に大きい足の爪先からその緑の丸まで愛しいなんて私は結構重症だ。でも本当にそう思う。


「やべえ緊張する」
「え、何が?」
「言わせんのかよ…今だって今!」


そう言ってまたガムをぷうと膨らませて顔を背けた丸井くんを私は少し勘違いしてたのかもしれない。彼は思ったことをさらりと言っているわけではなくて、伝えたいからそれなりに気持ちを構えて言っていたんだろう。私が思っていること、丸井くんをどれだけ好きかってこともきっと言わなきゃ伝わらない。


「あのね、さっき丸井くんのこと考えてたの」
「オレのこと?」
「そしたら私彼女なのにあんまり丸井くんのこと知らないことに気づいて」
「うんうん」
「だからこれからいっぱい知ってきたいなあと思うわけなんです」
「じゃあナマエの知らないこと、まず1個教えてやるぜ」
「ん?」
「オレがどれだけお前が好きか知らねえだろぃ?」

どきどきどきどき。パチンとガムの割れる音がした。



ぽわぽわ世の中
091216 /タイトル sting
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