いつも目にしていたのは背中だったと思う。任務のとき、昼に里内を歩くとき。昔暗部で同期だった年頃の私とカカシだけど甘い雰囲気になることなんて全くと言っていいほどなかった。カカシは里のことを第一に考えていたし、それは私も同じだった。 時は流れて優秀な暗部だったカカシは暗部を辞めて優秀な上忍になったことを聞いた。私は相も変わらず暗部にいた。火影さまも五代目に変わった。めまぐるしく廻る時間の中で私は一人取り残されたような気分を感じていた。 いつものように任務の帰りに里全体を見回そうと思ったら先客がいた。はたけカカシだった。別段話すこともないのでそれならば、と振り返った背中に「帰んないでちょうだいよ」と間延びした声が追いかけ身が固まる。 「久しぶりィーオレのこと覚えてる?」 「もちろんだよ、カカシくん」 私の返答を聞いたカカシがぽんぽんと自分のとなりを叩いて座れと訴えかけていたので私は素直に従う。ぽすんと音を立てれば柔らかい芝生の感触がズボンごしに伝わって久しぶりの再会に少なからず張りつめていた緊張の糸が幾分かほどけた。 「最近どうなの?」「この間暗部の部隊長になったところ」 「すごい出世だな」 「カカシくんに比べたらまだまだだよ」 「いやお前はすごいと思うよ」とカカシは呟いて立ち上がりフェンスに肘を預け遠くをみつめた。ガシャンと錆びたフェンスが音をあげて、夜の澄んだ空気を引き裂く。私もカカシの目線を倣ってぼんやりと遠くをみつめる。 「オレさ、」 「うん」 「お前のこと好きだったと思う」 何かのついでのようなカカシの呟きはあまりにも日常的で注意しなければ受け流してしまいそうなものだった。「多分ね」と付け加える彼に私は目を閉じて忘れていた過去の記憶を手繰り寄せる。そうだ私はカカシが好きだったのだ。 「そういえば私もカカシくんが好きだった」 「はは両想いだったんだな」 「里の次にだけどね」 「オレも、世界で2番目にお前が好きだった」 そう言って私たちは今が夜だということも人の無常さとかもそういうことを全部すっかり忘れて笑い合った。やっぱり私たちは甘い雰囲気になんてなれないのだ。涙が一筋流れて頬を伝ったのを私は知らない。 つぼみで千年 100223 /タイトル たかい |