「あの白いフサフサの毛に埋もれて眠りたいんだけど」 「やだ」 顔の前で手を合わせて、首を傾げる角度60度。雑誌で勉強したお願いポーズを完璧に実演。とっても可愛らしくお願いしたというのに目の前の目つきの悪い少年はそれを一蹴した。いや、しやがった。雑誌にはどんな男の子もイチコロって書いてあったのに嘘じゃんか。なんで効かないんだろう。前から薄々疑ってたけど、やっぱりキバって犬なのかもしれない。 「なんでなんで?」 「赤丸は渡さねー」 「心せまっ」 「あ?なんか言ったか?」 キバは最近全然可愛くない。いや昔から可愛くないけど今よりほんのちょっと素直だった。同じ任務の帰りで家も隣だから一緒に帰らない理由が見つからない。並んで歩く2人の間には赤丸がいて、私とキバを交互に見上げながらのしのし歩く。ちょっと前まで子犬だった赤丸はいきなり大きくなった気がする。赤丸の成長にばかり目が行って見逃してしまいがちだが、キバだって背が伸びた。私が5センチ高かったのに抜かされた。そういう目に見える変化、見えない変化が周りではいっぱい起きている。サクラといのは医療忍者として頑張ってるみたいだし、ヒナタも白眼に更なる磨きをかけているようだ。シカマルはバンバン実績を残しているし、ナルトも自来也さまと頑張っているみたいだ。 「ねえ、ナルト元気かな?」 「心配するだけ無駄だぜ、あいつそんな柔な野郎じゃねーし」 私の方を振り向きもせずに言うキバがなんだかおかしくて私は小さく笑う。そこで漸く私の方をじろりと睨んだキバは多分耳もいいんだと思う。そんな風に睨まれたって、キバがナルトを認めてるのは知っているし、ナルトに追い付こうと秘密裏に努力してるのも知っている。だからごまかしたって意味がないのだよ。 「そんなに赤丸と寝たいなら寝かせてやるよ」 「まじ!?」 「まじ、ただしオレ付きな!」 「えー」 「やだって言うなよ!」 「ま、いいか」 私も今日くらいは素直になってもいい気がする。「まじか!」と口を開けて振り返ったキバにビーフジャーキーを買ってあげるのもいいかもしれない。それでキバの家に着いたら窓を開けて暖かい日差しを浴びて寝よう。春風が吹いて私の綻んだ頬を優しく撫でた。 メランコリックワルツ 100327/タイトル selka |