「ブン太のバカ!アホ!」 今日も元気にお菓子を食べているといきなりナマエが大声で叫ぶもんだから教室中の視線がオレに集まったのを肌で感じた。喧嘩なんてしょっちゅうで、その度こいつはバカだのなんだの言ってくるからオレはもう言われ慣れてる。だがしかし、今日はいつになくナマエの目がマジだったからオレは女子に貰ったばかりの誕プレのショートケーキを口に運ぶのを忘れてしまうほど面食らった。 「おい、何そんなにキレてんだよ」 「もうやだそんなにお菓子が好きならお菓子と付き合えば?」 これでもかって位、眉間に深くしわを刻んで睨みつけながら足をツンツン蹴ってくる。地味に痛い。それはそうとなんでこいつこんなに怒ってんの? 「なあ、オレなんかしたか?」 「……」 「うーん…お、これうまそうだな」 「私ジャッカルと浮気するから!ばいばいブンちゃん」 ナマエはちょうどオレに会いに来たジャッカルの腕を取って言う。ジャッカルは「お、おい」と慌てながらナマエの手を振りほどこうとして何とかしろみたいな視線を向けた。いや、させねえジャッカルと浮気なんてさせねーし。 「待て血迷うな」 「おいブン太、なんだよ血迷うって」 「そいつはなコーヒーばっか飲んでるようなやつなんだよ。オレと一緒に甘いもんでも食った方が楽しいだろい」 「……」 やべえ、こいつの眉間のしわ更に深くなってるんですけど。「クマ出来てんぜ大丈夫か?」って言いながらオレが頭を傾けた所でナマエは悲しそうに眉を下げると紙袋を投げつけて出て行った。唖然としてしまって追いかけることも出来なかった。意味わかんねえ。あいつが投げた紙袋の中を覗くと白いクリームが見えて、そろそろと引き出してみると均一ではないクリームの塗り方、チョコでかかれたいびつな文字から察するにこれは手作りのようだ。そういえば昔に「お前の作ったケーキ食いたい」って言ったことがあって、「えーめんどい」って取り合ってくれなかったからすっかり忘れてた。なにしろあいつは卵焼きを作らせれば殻が紛れ込んでじゃりじゃりだし、ご飯炊かせりゃ芯だらけで食えたもんじゃねーしで相当料理が下手なんだというのは家庭科の授業で認識している。なのにオレの誕生日のためにこんなケーキを作ってくるなんて相当苦労したのだろう。クマだって徹夜とかして出来たに違いない。なんだかオレはすごい申し訳ない気持ちになってため息を吐いて髪をガシガシやった。 「ちゃんと謝ってこいよな」 「うるせーな今行くよ」 自分へのイライラからジャッカルに当たってしまったけどジャッカルは良い奴だからきっとわかってくれてると思う。まあたまには日頃の感謝を込めてスタバでアメリカンでも奢ってやろうと密かに決めた。隣のクラスの前の廊下でナマエの頭をあっさり見つけてしまったオレってやっぱり天才的ぃ。 「ナマエ!」 「ブンちゃん…?」 「やあ、朝練ぶりだね」 「あれ?幸村くん…」 「じゃあオレは行くよ名字さん」 「ありがとう幸村くん」 「あ、そうだ。あんまり彼女のこといじめちゃダメだよ」 ふふふと幸村くんが、なにやら薄暗い空気を伴って笑った気がするけど多分気のせいだろう。背筋が凍る思いってこういうのを言うかもしれない。 「あのさ…」 「ごめんね、ブンちゃん」 「え」 「ブンちゃんが女の子から貰った美味しそうなケーキ食べてるの見たらイライラしちゃってつい…」 「いやオレが悪いんだよ、ひどいことしちまったな」 「お互いさまだね」 「そういうことでこの話は終わり!お前のケーキ食おうぜ」 そうしてナマエの手を引いてオレの席に戻るとジャッカルがオレらを見て安堵の表情を見せたからピースで答えた。 「じゃあせーので、あーんしようぜ」 「えっハズいんですけど」 「ったく照れんなよ可愛いな」 「何言ってんのバカ!」 ちょっと頬を染めてオレの頭を叩いたナマエにいいからいいからとフォークを握らせる。ケーキをすくって口元に運ぶと渋々ながらもやってくれた。やべえな、周りの空気が甘い。彼女の手作りケーキとか幸せ。オレは陶酔感に浸りながらナマエの差し出したフォークにかぶりつく。途端に口内に広がるクリームのしょっぱさ…え? 「やばい!砂糖と塩間違えちゃった!」 オン ザ ホイップ 100420 ブン太誕生日おめでとう! タイトル selka |